第12話 冒険者ギルド

 それから数日が経過した。


 今日も僕はいつものように魔法の練習をする。


 最初はマッチ程度の火を出して終わりだったけど、今では火を飛ばすことができる。


「燃え盛る炎の精霊よ、いまここに顕現せよ。サラマン」


 少し遠くに離れた的に小さな火の塊が当たる。


 よし。


 今日初めて的に当てられた。


 魔法はイメージというけど、本当にそうなんだと思った。


 火を飛ばすイメージをしたら、勝手に火が飛んでいってくれた。


「さすがです。御主人様」


 コハクがパチパチと手を叩く。


「コハクの指導のおかげだよ」


 ちなみにコハクにはちゃんと指導料を払っている。


 でなきゃ、彼女はただ働きになるしね。


 とはいっても、これだけでは彼女の借金を返すことはできない。


 コハクの借金はとんでもない額だからだ。


 エルフはそれだけ高価ということ。


 まあコハクはエルフの中では格安らしいけど。


 なんにしろ、コハクの時間を奪っていることに変わりない。


 ちょっと申し訳なく思う。


「いいえ。御主人様の才能です」


 そう言われると僕は調子に乗ってしまう。


 前世ではあまり褒められたことがなかったから。


 むしろ「こんなものか」と言われ、失望されることのほうが多かった。


 だからお世辞でも嬉しく思ってしまう。


 調子に乗ってバンバンと的に打ち込んだ。


 そのうちの何発かが的にあたった。


 やった!


 今日は調子が良いようだ。


 というか、僕の魔力って増えてない?


 確実に増えてる。


 なんでだ?


 魔法の扱いがうまくなったから、魔力の効率が良くなった……とか?


 いや、それにしても増えすぎでしょ。


 コハクに聞いても理由はわからないらしい。


 まあひとまず置いておこう。


 少ないよりは多いほうがいいし、魔力が増えて困ることはない。


 これで僕も冒険者になれるかな?


 冒険者の認定試験について軽く調べておいた。


 冒険者になるだけなら、すごい魔法とか、すごい剣術が使えなくてもいいらしい。


 もちろん、強いに越したことはないが、今後の成長を感じさせるものがあれば認定試験は通る。


 そこらへんは意外と緩い。


 明確な基準も示されていないし、結構、属人的なところがある。


 認定試験は試験官の予定が空いていればいつでもやれるらしい。


 そろそろ僕も認定試験受けようと思う。


「このぐらいなら試験クリアできるかな?」


「おそらく問題ないでしょう」


 コハクのお墨付きだ。


 ということで翌日、僕は冒険者試験を受けることにした。


 もちろん、一人で向かった。


 すでに冒険者登録を済ませているコハクを連れ回すのは、さすがに申し訳ない。


「ここか……」


 ゴクリと唾を飲み込む。


 冒険者ギルド。


 さすが冒険者の街と呼ばれるだけあって、冒険者ギルドは立派なつくりをしていた。


 まずぱっと目につくのは大きな木製の扉と石造りの壁。


 屋根の端には小さな尖塔があり、威厳を感じさせるデザインだ。


 大きくて高いアーチ型の窓が並び、頑丈な鉄格子がはめ込まれている。


 いかにも冒険者ギルドという見た目。


 恐る恐る中に入ると、


「がっはっはっ!」


 想像した通り、ガヤガヤしていた。


 受付はどこだ?


 僕はキョロキョロとしながら歩いていると、ドタっと巨体の男にぶつかった。


「おい、坊主。ここはガキが来るところじゃねーぞ?」


 ひぃ……こわい。


 巨体に長剣、さらに眼帯。


 まさしく僕が考える冒険者の荒くれ者というイメージ。


「す、すみません」


 僕はぺこりと頭を下げる。


「おいおいルーキーをあんまりいじめんなよ」


 隣りにいた、ひょろっとした男がそういって巨体の男を諌める。


「あ? こいつがルーキー?」


「おうよ、未来のSランク冒険者様かもしれねーぜ?」


「はっ、バカいえ。こんなやつがSランクになれるってんなら、冒険者全員Sランクだぜ?」


「ちげーねぇ」


 ひょろっとした男が「はっはっはっ」と笑う。


 馬鹿にされてることはわかる。


 でも言い返す度胸はない。


「あっと、すまねぇ。未来のSランク冒険者様。せいぜい死なねーように頑張れ。まあ冒険者になれたらだがな!」


 巨体の男と笑いながら去っていった。


「なあオメェ」


 ひょろっとした男がギョロ目を向けてきた。


「なんで冒険者になりてぇんだ?」


「なんでって言われまして……」


 特に理由があるわけじゃない。


 なんとなく、だ。


 他にやりたいことがない。


「あれだろ? 奴隷たちに冒険者やらせてんの、オメェだろ?」


「……そういう情報、もう広まってるんですね」


「そりゃ、ここはちいせぇ街だしな」


 小さいとはいうものの、それなりに人口もいるし賑わってる。


「憧れた……からですかね?」


 前で窮屈な生活をしていた僕だから、こういう自由な職業には憧れがある。


「はんっ、憧れか。贅沢なやつだな。

 他人ひとのこととやかく言うつもりはねぇが、オメェ冒険者向いてねぇーぞ」


 とやかく言うつもりはないくせに、とやかく言ってるじゃん。


 どっちなんだよ。


「やってみなきゃわかんないですよ?」


 しまった。


 つい反射的に反抗的な言い方してしまった。


 ああ、なんだろうな。


 生前の自分よりも好戦的になってる気がする。


 エソラの記憶を引き継いだからか?


 わからない。


「中途半端にやるもんじゃぇーって話だ。先輩からのありがたい教え、胸に刻んどけよ」


 ひょろがトントンと胸を叩いて言う。


「じゃあな」


「……はい」


 うーん、なんだったんだろう?


 冒険者の洗礼?


 いや、忠告?


 誰に何と言われようと、僕は冒険者になるけどね。


 冒険者になるのは僕の自由だしね!

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