第10話 魔法
奴隷たちを冒険者として働かせる。
それにあたって彼らに武器や防具についても考える必要があった。
もっというと、お金周りだ。
なるべくなら奴隷たちが自由に武器や防具を選ばせてあげたい。
でも、うちだって際限なくお金が出てくるわけじゃないし、その分は彼らの借金に上乗せされる。
で、そこらへんを考えるのが面倒だったから、僕はパールに丸投げした。
僕の足りない頭で考えるよりよっぽど良いだろう。
パール、悪いね。
何から何まで任せちゃって。
パールがいてくれて本当に良かったと思う。
ということで僕は何もやらなくてもお金が入ってくる仕組みが整った。
これで安泰だね!
まあヤマルが整えた仕組みなんだけどね……。
結局、僕は親のレール上でしか生きていけない。
それがひどく嫌だなと思った。
かといって、その権利を手放すことができない自分が嫌だった。
親のレールではなく、自分らしく生きてみたい。
それでなきゃ転生したのにもったいない。
ということで、僕も冒険者になろうと思った。
理由は単純だ。
僕がなりたいから。
昔読んだWEB小説で、主人公が冒険者として楽しく気ままに生きていた。
そういうのに憧れた。
ファンタジー小説と現実を一緒にするなんて馬鹿馬鹿しいと思う。
でも僕は冒険者になりたいと思った。
自由な人たちに憧れた。
でも、僕には他にやりたいこともない。
なら、今目の前にあるやりたいことをやってみようと思った。
そんな単純な理由で僕は冒険者になりたいと思った。
冒険者にはランクがある。
FランクからSランクまでだ。
新人は通常、Fランクからスタートするものの能力がある人はいきなりEランクやDランクから始めることができる。
実力がある人が低いランクのままいると色々と不都合が生じるから、らしい。
冒険者のランクを決めるのは冒険者ギルドだ。
そして冒険者になるのも、冒険者ギルドから認定してもらう必要がある。
認定試験というやつだ。
この試験は簡単にいえば、戦闘能力を見られる。
まず間違いなく、僕はこの試験を突破できない。
エソラは戦闘力皆無の人間だったから。
もしもこの世界にス〇ウターがあれば、
「こいつ……戦闘力ゼロの雑魚だ……」
と言われると思う。
あるいは、ステータス画面があれば、
「ハハハッ。こんなステータスじゃ魔物どころかネズミ一匹も倒せねーよ」
と冒険者ギルドの酒場で馬鹿にされるだろう。
もちろん、この世界にス〇ウターもステータスもない。
戦う力を身につけるには、剣か魔法を覚える必要がある。
別に剣じゃなくても槍や斧でも良いんだけど、主流は剣だ。
でも、正直僕は今から剣を学んだところで一流にはなれないと思う。
エソラはそんなに運動神経良いほうじゃない。
それに僕は剣よりも魔法が好きだ。
だけど残念ながら僕は魔法を扱えない。
というか、使える才能があるかどうかすら知らない。
エソラが今まで魔法を使った記憶はない。
まずはエソラが魔法を使えるかどうか、使えたとしてどのくらいの才能があるか検証しなくちゃならない。
魔法を教えてもらうにはとっておきの相手がいる。
コハクだ。
コハクはエルフ。
エルフは魔法の扱いに長けている。
コハクも当然ながら魔法が使える。
ということで僕はコハクから魔法を教わることにした。
「魔法とは自然のカタチを変える術です」
開口一番、コハクがそう教えてくれた。
うん……?
なんか難しいこと言われた気がする。
「えっと……ごめん。どういうこと?」
コハクは考えるように顎に手を置く。
そしてしばらく沈黙してから応えた。
「申し訳ございません。私は人族の魔法には疎く、上手にお伝えすることができないかもしれません」
「……というと、人族とエルフの魔法は異なるということ?」
「いえ……」
コハクが軽く首をふる。
「おそらく同じものといえます。ただし、魔法に対する考え方が異なります」
「それだと何が問題なの?」
「御主人様の価値観に合わない考え方で魔法をお教えすることになります」
うーん。
結局、何が問題なのかがわからない。
「つまり……御主人様の価値観では理解しにくい可能性がございます」
「ああ、なるほど?」
よくわからないけど、わかったような気がする。
「じゃあ、人族の価値観でいう魔法ってどんな感じ?」
「魔法は想像によって創造されます」
んん?
また難しいことを……。
いやでも、なんとなく言ってることがわかる。
「要は、魔法はイメージによって創られるってこと?」
「おっしゃるとおりです」
なるほど。
これなら理解できる。
というか、種族によって魔法の考え方って違うんだ。
まあそれも当然か。
文化が違うわけなんだし。
「でもそれならイメージできるものはなんでも魔法で再現できるってこと?」
「限度はございます」
「まあ、そうだよね……」
コハクの説明によると、魔法にはいくつか制限があるらしい。
まずは魔力量。
質量保存則とは言わないけど、魔法を発現させるにはそれに見合う魔力が必要となる。
ちなみに魔力量は幼い頃に伸び、15歳を超えるとほとんど増加しないらしい。
人族の場合は、という話だけど。
次にイメージ。
このイメージというのが曲者らしい。
たとえば火の魔法。
ぱっと火を出すってなると簡単なように思えるが、意外と難しいらしい。
どのくらいの熱さなのか?
どのくらいの大きさなのか?
どういうふうに存在するのか?
火という比較的簡単にイメージできるものでも、詳細なイメージをするのはなかなかに難しいらしい。
ただし完璧なイメージでなくても魔法を使うことはできる。
詠唱によってイメージを補完することができるようだ。
逆に詠唱なしで魔法を使うのは相当難易度が高く、基本的に魔法は詠唱とセットと考えたほうが良いとのこと。
WEB小説ではよく無詠唱魔法が出てくる。
僕は無詠唱魔法ってかっこいいから好きだ。
でも、この世界では、無詠唱魔法はあまりにもコスパが悪いからほとんど使う人はいないらしい。
残念だ。
無詠唱は手動で詠唱が自動という感じだろう。
最後に相性。
相性は生まれながらに決まっている。
言い換えると才能だ。
果たして僕に才能はあるのか?
心配なところだ。
魔法には四大属性がある。
火、水、風、土の4つだ。
なぜこれが四大属性と言われているかはコハクも知らないらしい。
あくまで僕の推測だけど、火、水、風、土は人間の身近にあったから四大って呼ばれるようになったんじゃないかと思う。
自分がどの属性と相性が良いか見る手段もあるらしいけど、魔道具が必要になるんだって。
でも、別に魔道具なんて必要ない。
実際に四属性を試してしまえばいいからだ。
「まずは火の魔法を使ってみたい」
僕がそういうと、コハクが火魔法の詠唱を教えてくれた。
僕は教わった詠唱を口に出してみる。
「燃え盛る炎の精霊よ、いまここに顕現せよ。サラマン」
なんかちょっと恥ずかしい。
中二心がくすぐられると言うか……。
真面目にいうのが憚れる。
でも、この世界では至って普通のことだ。
はずかしがることなんてない。
胸を張って詠唱しよう!
ということで火のイメージだ。
人差し指から火が出現するイメージをしてみよう。
イメージ、イメージ……。
火のイメージ?
うーん。
うーん。
うーん……。
あんまり思い浮かばない。
そもそも指から火が出るなんてイメージできるわけがない。
漫画でそういう場面を見たことはあるけど、漫画は漫画だ。
現実じゃないと思ってしまう。
ちなみにその漫画は親によって捨てられた……。
まあそんなことはどうでもいいね。
よし発想を変えよう。
僕が持てるイメージ。
しいていうなら、ライターに火が付く感じか……。
あれならイメージしやすいかも。
人差し指をケースに見立て、魔力はガスのイメージだ。
「燃え盛る炎の精霊よ、いまここに顕現せよ。サラマン」
血がぐぐぐっと手のひらに集まってくる感じがした。
おお、これが魔力か……。
直感でわかった、
次の瞬間、人差し指からぽっと火が出現した。
小さな火だ。
「え? 成功……?」
想像以上に簡単に魔法が使えたせいで実感が沸かない。
「お見事です。成功です」
そっか。
成功か。
そっか、そっか。
やった!
じわじわと感動が込み上げてくる。
僕は魔法を使えたぞ!
なんか嬉しい。
いやまああマッチ程度の火だけどさ。
たいしたことないかもしれないけどさ。
でも魔法だ。
ファンタジーだ。
僕は魔法が使える!
それが妙に嬉しかった。
気がつけば指から火が消えていた。
「まさか一発で使えるとは思っておりませんでした」
そうか。
僕は天才なのかもしれない。
転生特典ってやつかな?
神様がチートプレゼントしてくれたのかな?
ありがとう、神様。
やっぱり異世界転生はこうでなくっちゃね。
というわけで他の属性の詠唱も唱えてみよう。
ひょっとすると僕は全属性相性が良いかもしれないからね!
と、調子に乗っていた僕だけど、結果はダメダメだった。
どうやら僕には火属性以外の適正がないらしい。
まったく発現しなかった。
泣きそうだ。
「いえ御主人様。最初はできないのが普通です」
と、慰めの言葉をもらった。
そうだね。
うん。
とりあえず火魔法とは相性が良いようだ。
ということで、もう一度火魔法を使おうとした僕だけど……
「……っ」
頭がくらくらしてきた。
なんていうか……貧血? みたいな感じだ。
「どうされましたか?」
「ちょっと頭がガンガンする……。それに、体から力が抜けてるような……」
「もしかして……」
「なに?」
「……魔力切れかもしれません」
「え……?」
ちょっと待って。
僕、まだ一発しか魔法使ってないんだけど?
僕の魔力ってマッチ1本分の火出すだけ?
それはないでしょ……。
そう思った瞬間、僕は意識を失った。
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