第3話 エルフの少女

 色々と思い出した。


 僕はエソラという少年に転生した。


 転生というのか、憑依に近いかもしれない。


 どっちでもいいけど、僕はエソラになった。


 じゃあ、エソラはどうなったんだろう?


 たぶん、エソラは死んだ。


 なんとなくだけど、僕のこの感覚は正しい。


 鳥の怪物に襲われて、そのまま転落死。


 死んだエソラの体に僕が乗り移ったんだろう。


 僕はエソラの記憶を引き継いでいる。


 どうやらここは日本じゃないらしい。


 というか、まったく別の世界のようだ。


 つまり僕は異世界転生をしたってことだ。


 エソラの記憶がなければにわかに信じがたい事実だ。


 今でも少し混乱してる。


 エソラは奴隷商人の息子。


 父親の名はヤマル。


 奴隷というのは別にこの国では問題ない。


 街を歩けば普通に奴隷とすれ違うような世の中だ。


 日本では考えられないような価値観だけど、それに納得している自分もいる。


 きっとこれはエソラの記憶を引き継いだからだ。


 エソラはヤマルに甘やかされて育ってきた。


 そのせいで嫌な感じの子供になっていた。


 といっても、ちょっと感じの悪く趣味が悪いだけの普通の子供だ。 


「にしても、彼らは災難だったね」


 エソラとヤマルは馬車で遠出をしようとしていた。


 その途中で鳥の怪物に襲われ、馬車が崖から落っこちたというわけだ。


 それによってヤマルが死亡。


 エソラも死んで、その体に僕が入り込んだということだ。


 だいたい状況は整理できた。


 エソラたちには悪いけど、僕にはありがたい話だ。


 人生のやり直しの機会を得られた。


 前世では何もできず、傀儡のように奴隷のように生きていた僕にやり直すチャンスが与えられた。


 もう誰かの言いなって生きていきたくはない。


 この世界では自由に生きていこう。


 僕はそう決めた。


 ちなみに僕をここまで運んでくれたのは、エルフの少女だ。


 一緒に馬車にいたあの子だ。


 別に彼女は優しさで僕を運んだわけではない。


 僕が彼女の主人になったから、彼女には僕を助ける責務が生じた。


 そう、彼女ら奴隷の所有権は僕にある。


 ヤマルは自分が死んだ後のことも考えていたようだ。


 ヤマルが死んだ場合、奴隷の所有権がエソラに渡るような奴隷契約が結ばれていた。


 ちなみに契約内容は事前にヤマルから教わっていたため、エソラの記憶にも残っていた。


 といっても、エソラが覚えていたのは契約内容の一部。


 細かいことはよく憶えていない。


「エソラって、ヤマルに愛されていたんだな……」


 生前の僕とは大違いだ。


 果たして僕は両親に愛されていたんだろうか?


 まったく愛されていなかったとは思わない。


 でも、あんまり愛情を感じたことはなかった。


 まあもう過ぎたことだ。


 いま考えても仕方ない。


 それよりも今後のことを考えよう。


 僕は奴隷商人の息子……いや、奴隷商人になった。


「奴隷みたいに生きてきた僕が奴隷商人か。なんとも皮肉なことだね」


 自嘲気味に笑う。


 さてここからどうしようか?


 と考えていたときだ。


 トントン、と扉を叩く音がした。


「どうぞ」


「失礼いたします」


 エルフの少女が部屋に入ってきた。


 僕を助けてくれた子だ。


「御主人様。お目覚めのようですね」


 無表情に感情の起伏ない声。


 クールビューティーとは彼女のことを言うのかな?


 エルフはみな整った顔をしてると聞く。


 ほかを知らないけど、目の前の少女は確かに整った顔立ちをしている。


 ヤマルがエルフを連れ回していたけど、彼の気持ちも理解できる。


「御主人様。いかがなされましたか?」


「なんでもないよ。それよりも、ここまで運んでくれてありがとね」


「……いえ、大したことではございません」


 そうは言うけど、どうみても彼女の華奢な体では僕を運ぶのは大変だっただろう。


 いくら僕が軽いと言っても、彼女はまだ少女だ。


 いや、彼女は本当に少女なのだろうか?


 エルフの年齢は見た目に依らないらしい。


 つまり、100歳を超えるエルフの可能性だってある。


「君、歳は?」


「15でございます」


 僕と同じ年齢だ。


 普通に見た目通りの年齢だった。


 ていうか、レディに年齢聞くのって紳士じゃないよね。


 今度から自重しよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る