第2話 異世界転生?

 ガタン、ガタン。


 揺られている。


 なんだかボーっとする。


 意識が朦朧としている。


 ここは……どこだろう?


 馬車の中?


 なんで僕は馬車にいるんだ?


 たしか交通事故にあったはずで……。


「ん? どうした」


 目の前のおじさんが話しかけてきた。


 誰だ?


 シルクハットにでっぶりした腹……サーカスにいそうな感じの人だ。


「父上、父上!」


 んん?


 どこからか少年の声が聞こえる?


 後ろのほう……から……?


 よくわからない。


「なんだ?」


 でっぷりしたおじさんが僕の顔を見てくる。


「もうすぐ僕の誕生日ですよね!? 覚えておりますか?」


 また後ろから少年の声が聞こえてきた。


 いや?


 後ろ……からなのか?


「もちろんだとも! 私のかわいい息子の誕生日だ。忘れるはずもない」


 おじさんが鷹揚に頷いた。


「じゃあプレゼントください!」


「ふむ……。そうだな。

 何が良い? なんでもは買えないが、それなりのものは用意してやるぞ?」


「奴隷が良いです! 父上の持ってる奴隷を一つください!」


 この少年、なんてことを言い出すんだ?


 現代で奴隷なんて聞いたことがない。


「そうか、そうか。奴隷は安くないからな……」


 おじさんが渋るように眉をひそめる。


「ダメ……でしょうか?」


 少年の懇願するような声が聞こえてくる。


 相変わらずどこから発せられているのかわからない。


 おじさんは、うーむ、と頭を悩ませながら、


「仕方ない! お前のためだ!」


 と言った。


「やったー! 父上、愛してます!」


 少年がそういうと、おじさんの顔が破顔する。


 誕生日をねだる子供と父の会話で、本来なら微笑ましいと感じるものだ。


 でも、会話の内容がひどい。


 これ、どういう状況なんだ?


「じゃあ……」


 少年がそう言うと同時に、勝手に視点が左に動いた。


 んん?


 どういうことだ?


 まず目に入ったのがちょっと柄の悪そうなおっさん。


 厳つい顔だ……。


 あんまり関わりになりたくない人種。


「あ? なんだ坊主」


 おっさんが睨んできた。


 こわい。


「い、いえ……!」


 視点がさらに左に動く。


 少女が座ってた。


 あれ?


 でもなんか……おかしい……。


 違和感を覚える。


 と、思ったら少女の耳が尖っていた。


「そのエルフはやらんぞ」


「え?」

 

 再び視点が前に向く。


 でっぶりしたおじさんが見える。


 この顔はもういいから、さっきの子を見せてほしい。


「わ、わかってます! エルフは高いですもんね!」


「こいつはエルフの中では格安だったがな!」


 がっはっはと下品に笑うおじさん。


 嫌な感じだ。


「お前はどういう奴隷が好みだ?」


「見た目が良くて従順なやつが欲しいです!」


 なるほど、と目の前のおじさんが頷く。


 なんかさっきからずっと最低な会話してるよね。


 そもそもこの状況はなんなんだろう?

 

 夢……だろうか?


 うん、きっと夢だろうね。


 こんなわけのわからない状況、夢としか思えない。


 夢だと思って見る夢って初めてだ。


「よし、わかった。じゃあ帰ったら選ばせてやろう!」


「ありがとうございます! 父上!」


 さっきから後ろのほうから声がすると思ってたけど、この声の発生源は僕の口からだ。


 まったく意味がわからない状況だ。


 でも夢ってそんなもんなのかな?


 会話が途切れ、また視点が動く。


 今度は右だ。


 場所の窓から外の景色が見えた。


 うわっ、すごい。


 広大な景色が広がっている。


 日本では見たことがない景色だ。


 でもこの馬車……ちょっと危ないところ走ってるよね。


 馬車は険しい山道を駆け上がっていた。


 下には荒々しい崖がある。


 落ちたら危なそうだ。


 さすがに夢でも怖い。


 ん?


 なんか空にいる……?


 あれはなんだろう?


 鳥?


 にしてはちょっとでかすぎないかな?


 え、え?


 こっち近づいてくるんだけど。


「わああっ!?」


 少年がいきなり叫び声を上げた。


 視界がぐるぐると回る。


 目が回るというのはまさにこのことだろう。


 いや、それはちょっと表現が間違ってるかな?


 なんて呑気なことを考える。


 夢だとわかってるからか、冷静な自分がいる。


 でも……さすがにやばい。


 ぐるんぐるんと脳みそを掻き混ざられているようだ。


 これは気持ち悪い。


 夢なら早く覚めてくれ。


 そう思うと同時に、僕の意識はぷつんと切れた。


◇ ◇ ◇


 目を開けると知らないところにいた。


「ここは……どこ?」


 目がチカチカする家具や装飾品。


 見た目が高価そうなものが揃えられてるけど、全体的に統一感のない部屋。


 もちろん、僕の部屋ではない。


 僕の両親もこんなに趣味は悪くない。


 あの人達は、物には拘る。


「良い人間になるには、良いものを見る目が必要だ」


 とかなんとか僕に言ってきた。


 そもそも彼らのいう良い人間ってのは、金を稼げる人間。


 経営者である父からすれば、稼げるかどうかが大事だった。


 いや、そんなこと今はどうでもいい。


 それより、ここは誰の部屋なんだろう?


「う……」


 頭が痛い。


 ズキズキする。


 車にはねられたからかな?


 というか、あの事故でよく生きてたよね。


 意外と僕の体は頑丈らしい。


「ん?」


 おかしい。


 何か違和感がある。


 なんだろう?


 それに何か重要なことを忘れてしまっている気がする。


 思い出せない。


 僕は……。


 横断歩道を歩いていたら車が向かってきて、それで……。


 車にはねられて、僕は意識を失った。


 うん。


 ここまでは間違いない。


 ちゃんと思い出せている。


 でも、何か違和感がある。


「う……」


 頭が痛い。


 ダメだ。


 ガンガンする。


 思考がまとまらない。


 事故のせいか?


「うっ……」


 こめかみを抑える。


 何かが思い出せそうだ。


 あ、そうだ。


 僕は夢を見ていた。


 馬車の中にいて、よくわからないおじさんと話をして隣にはエルフがいて、最後に変な鳥の化け物に襲われた。


 あれは……夢?


「違う。夢じゃない」


 思い出した。


 というより、記憶が繋がった。


 僕は、エソラ。


 15歳。


 奴隷商人の息子だ。

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