閑話

 かの英雄、コーリカ・バースが天への階段へと歩みを進めてから、枝が大樹へと成るほどの時間が、ふっと経った。


  悠久の時を経て、彼は神格化され、街の中心には彼の功績をたたえた像が、悠然とそびえている。

 

 また今年もあいも変わらずどんちゃん騒ぎの時期がやってくる。

 昔は、一日限りの特別な日だったが、とある出来事が起き、今日まで期間が一週間に伸びている。

 それに伴って、これまで一日しか行われなかったパレードも、一週間毎日行われるようになり、余計うるささに拍車がかかっている。


 パレードが少し始まる前、一人の傾国の美女が高揚の嵐をかき分け、英雄の像へと近づく。

 そのほんの数分の間、鳥すらも彼女の動向に固定されていた。

 自分たちが息苦しくなり初めて息を忘れてしまうほどの美貌だった。

 誰だって、彼女に手を伸ばせば触れれる遠さなのに、その手が一生届かないような気がする…… そんな女性だった。


 そんな中彼女は、自分が主役となっているとはつゆ知らず、ただ英雄に向かい手と手を合わせていた。

  

 ――師匠はやっぱりすごいですね…… 普通の人だけでなく、偉人を救ったり、色んな人に勇気や元気を与えたりしていて。それに比べて私は、私は……新米の魔術師で、あまり人を救えなくて……どうしたら良いんでしょうかね……


 そんなことを心で吐露した後、トッと踵を返したかと思えば、からっ風のように消えていった。

 その顛末を見ていた人々は、淀みの世界にいたのかと錯覚するほど現実離れした光景にだだ、浸っていた。








 時は遡り、英雄が新たなステージへ駆けていった時、一人の男との再開を果たした。

「おい、コーリカ、お前もついに天国デビューか、俺はずっと待っていたんだぜ」

 その声は、どんな吉報にも劣ることのない、かけがえのないものだ。 

 懐かしい声が聞こえる。


 コーリカはその声の主の方へと顔を向ける。

 「全く、お前ってこんな粋なことしてくれる男だったか?」


 マルコのの手には、コーリカの部屋に置かれていてたものと同じ本があった。

 「コーリカ、お前、英雄になったんだな。誇らしいぜ。」


 はぁ、誰のお陰で英雄にならないといけなくなったのか教えてほしいのか?

 少し気怠そうな顔をしながら、近くへと寄る。

 

「まぁ、今はまた出会えた記念に飯でも食いながら話さないか? 今度は受け入れてくれるよな?」


 ――私は自分の野望を達成できた。時間は、山ほどあるんだ。それに、こいつに色々と話がしたい

 ジョルジャは今度こそマルコの誘いを受けた。


 そして、あの日の後悔を晴らすように、飯を食べながら、話し続けた。

 

 「お前の努力、ずっと見ていたさ。悪いな、俺がお前に一種の呪いをかけちまってよ」

 「別に良いんだよ、もとから英雄になるっていうのが目標だったし。話変わるけど、お前が望みを叶えてもらった魔術師ってどういう感じだった?」

 「よく覚えてないけど、体が七色に光っていたぜ」


 ――だから彼は、私のもう一つの願いを……


 「なんだ、私もマルコと同じ人に願いを叶えてもらったのか。これも俺達は引かれ合うっていう運命か?」

 「言えてるな」


 彼らの談笑はこれから先、尽きることはなかった。

 実体はもうない。だが、そこには温かな空気が確かに存在した。

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