帰還せし英雄

 「な、なぁ! 聞いたか!」

 「もちろんだ! え、英雄が病魔に打ち勝ったんだろ!」


  アルスがコーリカの願いを叶え、次の朝日が天に至るころ、一つの吉報がレーヤ中に歓喜の二文字をもたらした。


  「英雄の帰還だぁぁぁ!!」

  「「「「うぉぉぉぉ!!!」」」」

  一人の軍人が感極まり叫ぶと、感情が波として広がる。


 しばらく、冷たい空気に満ちていた市場も、以前よりも活気に満ち溢れ、怒号にも似た歓声が飛び交い、心のビートを各々が鳴らしながら、乱舞していた。




 しばらくすると、実家のような安心感を越えるほどの安心を与えてくれた豪邸から、一人の男が現れた。

 

 その時、レーヤ国内は一瞬、世界で一番静かになり、瞬きした瞬間地鳴りや、銅鑼の音をはるかに越える声が聞こえ、世界で最も騒がしい都市となった。



 「皆の者、すまない。私が不甲斐ないばっかりに皆に心配をかけてしまって。それに、私がいないせいで、パレードの準備や日程も大きく狂ってしまった。本当に申し訳ない」


 コーリカの心からの謝罪に民衆は……

 

 「いいんだよ英雄! それより、また目に出きて嬉しいよ!」

 「そうよ! 誰もあなたのことを責める人なんていないわ」

 「「「「英雄! 英雄! 英雄!」」」」


 喉が枯れる声で、彼の復帰を喜んだ。

 

――あぁ、民よ、すまない……

 

 コーリカの目尻が潤い、淡く光る。


 ――友を失った日から泣かないと決めたのだが…… いや、今は民の優しさに思う存分甘えるとしよう


 「皆の者、我々軍は、これから大急ぎでパレードの準備をして、皆の笑顔をより確かなものにする!」


 また、歓声がどよめいた。

 それから次の日まで、軍人たちがどんちゃん騒ぎしながら、パレードの準備をした。

 コーリカがいない時からは考えられない程、目には光が灯っていた。

 

 軍のバカみたいな騒ぎに便乗して、国民も狂ったように騒ぎながらパレードの準備を手伝った。

 本来、パレードの準備には、一週間はかかるはずだが、今年だけは一日で終わった。


 






 朝日が水平線から顔出す頃、レーヤいや、大陸史上最もうるさい日の幕開けとなった。

 

 まだ、パレードが始まる五時間前だっていうのに、出店には大きなヘビくらいの行列ができているし、三秒おきに、奇声と轟音が混じった音が鼓膜を刺し、もはやクライマックスだった。


 


 そして、パレードが始まったとき、国民の熱狂度のメーターは、完全に針が振り切れていた。

 

 かつての勇者が魔王を倒した時以上の盛り上がりと絶大な声量を、鼻で笑えるほどレベルが違かった。


 皆、一人の男を目当てにこの時を今か今かと待っているのだ。

 その男が現れた時、彼は国民に、手紙を送った。


 「皆のもの、すまなかった。私が突然寝込んでしまい、不安に支配されてしまったこと、本当に悪かった。これからは、二度とこのようなことが起きないように、邁進していくつもりだ。また、不甲斐ない私を認めてくれるだろうか。そして、これからは皆で、この国をより良くしていこうじゃないか!」


 その瞬間、間違いなく空気が揺れた。

 それも、震度六強ぐらいで。

 

 英雄は闊歩しながら、国民に笑顔を振りまいていた。

 すると、一瞬頭を殴られた衝撃が心に走った。


 命の恩人のアルスがいたのだ。

 彼はアルスに、国民に与える笑顔と同じ顔を見せ、少し焦点を長く合わせた。

 それに気付いたのかアルスは優しく微笑んだ。


 パレードが終わって、日が落ちても一向に盛り上がりは下がる気配すら無い。

 逆に、夜になるほど酔っ払いが増え、うるさくなる一方だ。

 

 とうとう、一日が終わった。パレードも終わったはずなのに、始まったときよりもうるさい。この騒ぎはいつまで続くのだろうか?

 

 それから三日たっても熱狂の渦は小さくなることを知らない。学校や仕事は皆休んでこの今しか味わえない時間を楽しんでいるのだ。


 一週間後ようやく馬鹿騒ぎが終わった。一週間も騒ぎ続けたら体が持たない。だから皆、今日は休養を取っている。


 コーリカはやっと長い祭りが終わったと安堵する一方、どこか静かになり寂しいという、相反する感情に包まれた。

 ――これから、もっと精進しないとな


 コーリカは、いつの日か親友に誓った約束を胸に抱きながらボソリと呟いた。







 「ありがとう、七色の魔術師」




 


 


 

 


 



  

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