レーヤ編

軍事国家は……

 大陸東部にレーヤという美しい軍事国家がある。


 街の北部には雄大な山々が連なり、街の南部には果てしない大海が広がっている。


 レーヤはカラッとした空気に包まれており、天気が崩れにくく、年中温暖な気候であるため夏にはリゾート地として、冬には避寒地として有名だ。

 さらに、毎年、大規模な軍事パレードも行われるので、年中を通して観光客が訪れる。


 街の中心部にはいらないくらいに活気を与えてくれる市場と常に熱気がギラつく訓練場や、大小問わずコテージやペンション、別荘などが派手な装飾をして非常に目を引くのだが、その中でも街の中心部の中の更に中心、つまりはこの街のへその部分に城と見間違うほど大きな豪邸が堂々とそびえてえている。


その豪邸には、バース家という一家が暮らしている。


 この豪邸は、現家長コーリカ・バースが三十数年前、軍で英雄と呼ばれる程の活躍をし、この街を平和へと導いた褒美として建てられたものだ。

 

 コーリカ・バースは、レーヤ国内で圧倒的な人気を誇り王族すらも虜にしている。その人気から、種族や性別を問わず軍への入隊希望を増やし、レーヤをものの数年で軍事国家にし、その名は大陸全土にまで轟いているのである。


 そのため、このそびえる豪邸とこの男の存在は、この街の平和の象徴として、長く市民に安心を与えていた……はずだった。



 今年に入ってから、コーリカが突然咳ごむようになったかと思えば、それから数週間後、病床に伏してしまったのだ。


 人が病気になってずっと寝込みがちになる――というのはさして珍しいことではない。病気になったことがない者など神話の住人くらいしかいないし、寝込みがちになったものなど、蟻のように掃いて捨てれる程いるからだ。


 だが、今回ばかりは少し事情が違う。

 かの大英雄が病に臥せているのだ。

 

 この男は、魔物の襲撃や敵国の奇襲、果てはドラゴンの襲来など、自国どころか下手をせずとも隣国まで何度壊滅してもおかしくないほどの危機を、この男は解決してきたのである。


 どんなに不利でも決して諦めぬ、不屈の精神。

 民を守るため、どんな攻撃をも受け止める、屈強な体。

 民には見せても敵には見せぬ、鎧の背中。

 この姿に、国民は、いや、この国は安心することが出来るのである。


 それにこの男は人望も厚いのである。部下たちからの信頼もさることながら、日々、市民との交流や、近隣の森のパトロール、パレードで自分が主役なのに率先して準備をし、パレード終了後や日々のゴミ拾いなど、自分の権力や影響力に酔いしれて悪用するのではなく、市民と対等な立場に立って行動したり、誰もやらないことを自分から進んで行ったりするからこそ、この男は、レーヤで不動の地位を確立したのである。


 だからこそ、皆彼に希望と憧れを抱かせ、英雄の象徴となっているのである。

 そんな、レーヤ国民にとって神にも等しき男が病に冒されているのである。

 

 その言葉が示す状況など赤子でも分かる。

 

 活気と熱気でごった返していた市場は静寂に覆われ、ド派手な装飾に囲まれたコテージやペンション、別荘はどことなくやる気を感じさせない色に見えるのである。

 

 野に咲く花や、風にさえずる鳥たちすら、どこかしおらしく、ナメクジになっているのである。

 

 こんな時こそ人々に光を与える存在であるはずの軍隊も、よもやよもやの英雄不在により、訓練中やパトロール中に目に滝ができており、明日世界が宇宙の藻屑になったほうがマシだと言わんばかりの表情に包まれている。


 レーヤ国全体に広がる、たった一つだが、カミサマからのお告げすら凌駕する



















                『

                 絶

                 望

                   』

















 というコインの裏のような感情につつまれた。










 







 時を同じくして、とある二人組がレーヤを訪れた。

 そして一言、

 「僕を望む声が聞こえるね、さぁ行かないと」

 こうして、アルスがこの国を救うきっかけができたのであった。

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