閑話

 カルムの死後、カルムの母親は、彼の命日にカレーを供え、一緒に味わった。


 一年目の年は、どこか悲哀を纏いながら――

 「カルムがいなくなってから、一年ね。カルムがいないと、時が流れるのが少し長く感じちゃったわ。久しぶりにカレーを食べましょう。冷めちゃったら美味しくなくなるわよ」 


 五年目の年は、少し歓喜を含んで――

 「ねぇカルム! 良い知らせよ! お母さんこの前ね、宝くじを福引で貰ったのよ。そしたら二等引いちゃったの! これから、カルムのお墓に雨避けの屋根をつけてあげたり、カルムの好きなジュースも供えてあげるからね! それじゃ、いただきます!」


 少し豪華になったお墓にようやく慣れた十年目は――

 「もう十年、時が流れるのは早いわねぇカルム。もしカルムが生きていたら、お酒を一緒に飲んでいろんなこと話したかったわ。仕事はどうだとか、好きな人ができたかとか、もういっぱいあるわ。また、いつか二人で話したいわね」


 白髪としわがちらほらと顔を出してきた二十五年目――

 「カルム、一年ぶりね。もうお母さん歳を取りすぎちゃって、ほらこんなにしわと白髪が目立ってきたのよ。もうおばさんになっちゃったわ。ほら、カレーよ。ゆっくり食べましょう」



 背骨も腰も老木になった五十年目――

 「カルム、もうお母さんおばあちゃんよ。最近咳が酷くてね…… もしかしたら、そろそろカルムに会えるかもしれないわ。お母さんが死んじゃっても、お隣さんにお墓を作ってもらうようお願いしたから心配しないでね。さぁ、カレー、食べようかね」

 







 







 次の年、カルムのお墓の前にはもうカレーは置かれなかった。その代わり、お墓が一つ増えた。




 カルムの母親は、気づくと雲の上にいた。

 

 右も左も分からぬまま、彷徨い続けていたが、突然一つの声が聞こえた。


 自分がもう一度もう一度聞きたいと、心から願った声だ。聞き間違えるはずがない。


 「お母さん!」

 「カルム! 久しぶり!」

 

 天国での再会に二人は開闢の瞬間より長い時間話し続けた。

 「カルム、お母さん泣かないで頑張ったよ」

 「お母さん、ずっと上から見てたよ。カレーを毎年くれたのと、ずっと泣かないで頑張ってくれたことありがとう」

 「カルム、これからはずっと話して、一緒にいようね」

 「うん、もう離ればなれになんかならないよ!」


 二人は、楽しい時間を永遠に過ごし続けた。








 







 


 カルムの死から百年後、一人の女性が二つあるお墓の前に立っていた。

 「これがあの時言っていた少年ですか…… 




 私も早く師匠みたいに一人前の魔術師になって、二つ名に似合うようにならないと……」




 女性はそんなことを声に落とすと、お墓に向かい、完璧な祈りを天へ伝えた。


 




 




  

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