第2話 男だと思っていた幼馴染が美少女になっていました!

「いやぁああああああああ! だれかぁあああああああああああ! 警察を呼んでぇええええええええええええ! きっと下着泥棒か盗撮犯かレイプ魔よぉおおおおおおおおおおおおおお! 犯されるぅううううううう! 純潔をうばわれるぅううううううううううう!」


「想像力がたくましいなおい! ていうか俺は不審者じゃねぇよ! 俺は今日からこの学園の――」


「そこまでだ変質者め!」


 勇ましい声に俺の声は遮られてしまう。

 声のするほうへ顔を向けると、学生寮から背の高い女子が走ってきた。

 下着姿で。


「ぶはっ!?」


 あまりの衝撃に、俺は噴いた。


 長い金髪を左右に振り、スイカ大の爆乳は上下左右、縦横無尽に暴れさせながら、彼女は走って来る。


 純白のブラがいまにもはじけ飛んでしまいそうで怖い。


 レースに溢れた白いパンティはガーターベルトで、スケスケのストッキングとつながり、彼女のむちっとしたフトモモを美しくラッピングして、豊満なカラダを見事に引き立たせていた。


 ――なんだあいつは!? 当たり屋か!? 美人局か!? 痴漢冤罪恐喝犯か!?


 少年漫画ならラッキースケベ展開なのだろうが、現実に、真昼間に半裸の女子が迫ってきたら、普通に恐ろしい。


 何か、犯罪の予感がする。

 異世界で体験した恐怖が蘇る。


 彼女は俺と女子の間に鋭く割って入ると、女子をかばうように左手を横に伸ばして、儀仗用の派手なサーベルを右手で構えた。


 艶やかな金髪をなびかせ、彼女は透明度の高い大きな碧眼で威風堂々、こちらを睨んできた。


「貴様! ここをブレイル女子学園と知っての狼藉か! 神妙に縛につけ! さもなくば――」

「イヤァアアアアアアアアアアア! 変質者ぁあああああああああああ! 変態ホワイトガーターベルト下着女ぁあああああああああああああああ!」


 俺は自身が被害者であることをアピールするため、両手で顔を覆いながら乙女のような悲鳴を上げた。


 すると、金髪の女子は言葉を呑み込んで、怪訝そうな顔した。


「な、なぜ私の下着を知って――ッ!?」


 金髪女子は視線を落とすと、途端に目を剥いて顔を真っ赤にした。


「わぁああああ!? ッッ!」

 一瞬、彼女は内股になりながら、左腕を胸に当てるも、すぐにまた同じポーズで仁王立ち。


 ただし、目には涙がたまっているし、僅かに引けた腰がぷるぷると羞恥に耐え忍ぶように震えている。


「だ、だからなんだ!? この程度で私が怯むとでも思ったか!?」

「あっくん」


 ――この呼び方は!?


 俺のあだ名を呼ぶ声は、俺にとって天使のラッパも同じだった。


「敷島!」


 かつての頼れる旧友にして幼馴染、心の友の姿を求めて、俺は笑顔で振り返った。


「へ?」


 すると、そこにはなんだか可愛らしい生き物がいた。

 まず、小柄だ。

 俺より、頭一つ分は小さい。


 大きな栗色のタレ目は小動物のように愛らしく、赤いワンサイドアップヘアにふちどられた童顔には思わず庇護欲をかき立てられてしまう。


 一方で、胸は制服のブレザーが締まらないほどに大きく、ハチ切れそうな白いワイシャツが乳袋を作ってまろび出ていた。


 対比でウエストは細く、だけどお尻は大きく、Y染色体由来の衝動が勃興してしまう。


 彼女は俺の前で立ち止まると、安堵の表情で俺を見上げてきた。


「あっくんだよね? まだいてよかった。ごめんね、久しぶりに会うから、鏡の前から離れられなくて……」


 申し訳なさそうに胸の下で両手の指を絡めながら、ほわりと頬を紅潮させた。


 男の保護欲と性欲を同時に刺激する童顔のトランジスタグラマー美少女の登場に、俺は一瞬、思考が停止してしまう。


 だけど、その赤毛に俺は旧友の陰を見た。


「あれ? 敷島って妹いたっけ?」

「妹じゃなくてしきしまだよっ。しきしまりお、わすれちゃったの?」


 みずみずしいミルク色のほおを幼女のようにぷくりとふくらませて、敷島を名乗る女子は不機嫌になった。


「いやいや、敷島は男子だぞ」


 顔の前で手を左右に振って否定した。


「えぇ!? あっくん、しきしまのこと、男の子だと思っていたのぉ!?」


 目の前の女子が、驚いたようにまぶたと口を開けて固まった。

 その反応に、俺の中で嫌な予感がじわりじわりと広がってきた。


「ひどい! ほらこれ、しきしまの学生証!」


 女子が目の前の空間を二回タップすると、突然目の前にMR画面――耳の裏にデバイスを装着している人にだけ見える仮想ウィンドウ――が表示された。


 彼女が器用に画面をタップすると、そこには【敷島・里桜】と表示されている。


「え……あの、まさか……じゃあ……ほんとうに、しきしまなのか?」


 おそるおそる、彼女を指でさすと、敷島はまたも頬を膨らませた。


「もぉ、あっくんのばかっ」


 怒った顔があまりに可愛くて、両腕の間にはさまれて強調された胸がセクシー過ぎて、俺は人生観が変わりそうだった。


 ――嘘だろ? この子が、あの敷島?


「で、でも、敷島は幼稚園の頃から俺と一緒に少年漫画とヒーロー作品の最強議論をしてタルモンゲームとタルモンカードでバトルしてヒーローごっこに興じて何度も俺をいじめっこから守ってくれた勇猛果敢にして勇往邁進、ワイルドでホットでクールでクレバーで雄大にして己がイズムと信念に従って生きるナイスガイなんだぞ。キメ台詞は『正義とシキシマンに敗北の二文字は無い』。しかも一人称がシキシマン!」


 最後の抵抗とばかりに俺が歴然たる事実を並べ立てると、敷島?の顔が真っ赤に紅潮しきった。


「わぁー! わぁー! わぁあああ! わすれてぇええええ! しきしまの黒歴史をぉおおおお!」


 敷島?は伸ばした両手をバタバタさせて、俺の頭や顔をぺしぺしと叩いてくる。


 そのたび、ぷにぷにとやわらかくてあたたかい感触が心地よくて、なんだかイケナイ気持ちになって恥ずかしい。


 そんな俺の窮地を救うように、鋭利な声が切り込んできた。


「何をゴチャゴチャと! 仮に貴様がここの生徒と顔見知りでも、男子が女子寮に侵入していい理由にはならないぞ!」


「えっ!? あの人なんで下着!?」


 敷島?がビックーンと体を硬直させて固まった。

 俺は保身の為に、わざとらしく敷島?の背中に隠れた。


「ひぃ! 助けてくれシキシマン! 待ち合わせ場所で待っていたら突然あの痴女が襲い掛かってきたんだ! きっと俺は欲望のままに蹂躙され汚されるんだぁ!」

「ッ!?」


 俺が泣き真似をすると、敷島?の柳眉が逆立った。


「そんなことさせないよ! あっくんは、しきしまが守るんだから!」


 ――キャー、ステキー、イケメーン、ダイテー。


 と、俺の中で乙女ハートがキュンとした。


 彼女は凛々しい声で金髪女子の前に立ちはだかり、勇ましく背筋を伸ばして不動の姿勢を取る。


 その雄々しい姿に、俺はかつてのヒーローの姿を見た。


 ――間違いない、この子は敷島だ。お前、本当に女子だったんだな。


 今どきの小学校は出席番号も背の順も全部男女混合のため、気づかなかった。


 かつての親友との再会を嬉しく思いながら、俺は心の中で彼女に熱いエールを送った。


 すると、金髪女子は敷島としばらく睨み合ってから、サーベルの切っ先を下ろした。


「ふんっ、どうやら、本当にその女子の知り合いらしいな。勘違いとはいえ、失礼したな」


 意外と素直に謝罪をしてから、彼女は左手で胸元を隠した。


「だが、男子が一人で歩いていれば不審に思うのは当然だ。彼女のようにね」


 語気を強め、そちらにも非があると言わんばかりに、金髪女子は最初に悲鳴を上げた女子へ目配せをした。


「これに懲りたら、以後、行動を慎みたまえ」


 最後は上から目線に説教をして、彼女は踵を返した。


「その制服、ブレイル男子学園の生徒だろう? 自分の校舎に戻るまでは、親友から離れないようにしてくれ。では、失礼する」


 言って、金髪女子はセクシーなお尻を振りながら走り去った。

 あとに残された女子は、視線を彷徨わせながらすごすごと歩き去っていった。

 そして俺は一言。


「なぁ敷島、俺のこれって、男子の制服なのか?」

「え?」

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