第23話
夜。
いつものオークション会場で、俺の出品したアークポーション、そして数々の特上品アイテムは億単位の値段が付いた。
それから別室で落札商品の受け渡しが行われて、その様子を俺は遠巻きに眺めた。
アークポーションを受け取る人たちの喜ぶ顔を見るのは、俺の楽しみの一つだからだ。
アークポーションが終わり、武器の引き渡しが始まると、俺は視線を外した。
――さて、最後まで見たいけど、長居すると俺の正体バレるかもだし、帰るか。
俺が踵を返すと、そこには数人の紳士淑女が並んでいた。
体格の良い老紳士が、力強い声で俺に声をかけてきた。
「突然失礼だが、この前は君のアークポーションで娘が助かった。お礼を言わせてくれ」
よく見れば、その男性は以前、アークポーションを競り落とした男性だった。
「え!? なんで知っているんですか!?」
俺が声を上ずらせて驚くと、紳士はニヤリと笑った。
「やはり、か」
「あ」
それで俺は、かまをかけられたのだと察した。
「驚かせて悪かったね。安心してくれ、このオークション会場は出品者の情報を売るようなことはしない、私も非合法な手段で情報収集はしていない」
「そう、ですか」
安心はするも、では何故? と疑問が止まらない。
「いや何、回復系アイテムを競り落とすために、このオークションには毎週参加していてね。参加者と出品者の顔はだいたい頭に入っている。だから先日、君のような子供を目にして、珍しいとは思っていたんだ」
「でも、親の付き添いとか……」
「毎週顔を出すが、君が大人と一緒にいるところを見たことが無い。アークポーションと共に現れ、引き渡しの様子を見守り立ち去る少年。これだけの条件がそろえば推理するのは簡単さ」
声音はたくましく、口調はおだやか。
男性は話しているだけで信頼感を与えてくれるような印象を受けた。
アークポーションを買える財力を考えても、きっと、大企業の会長か何かだろう。
「そうでしたか。なら正直に言います。おっしゃる通り、俺がアークポーションの出品者です」
俺が肯定すると、他の紳士淑女は憧れのスターに会ったように頬を緩めたり、感嘆の声を漏らした。
「その若さで素晴らしい。だが毎週、あれほどの素材をどこで?」
「まぁ、とあるダンジョンで」
俺が言葉をにごすと、紳士は口元に微笑を浮かべた。
「企業秘密、というやつか。なら私も詮索はしないでおこう。ヒーローに秘密はつきものだしな」
あっさりと引き下がった引き際の良さに、俺はやや肩透かしだった。
てっきり換金所の人たちみたく食い下がって来ると思った。
「しかしAランク冒険者の顔は全て頭に入っているが、君のように若い冒険者はいないはず。資格は?」
「俺は冒険者資格持っていませんよ?」
「ほぉ、無資格で、その若さでアークポーションを手に入れられるだけの力量。まるで映画の主人公だな」
「どこにもくみしない孤高の冒険者ってわけね。とてもステキよ」
「期待の超新星ですね」
「名刺を受け取ってくれるかな?」
最初に声をかけてくれた紳士が胸ポケットから一枚の名刺を取り出すと、他の真摯たちも次々名刺を取り出した。
セレブだけあって、渡された名刺は質感から違う上質紙らしい。
「ありがとうございます、でも俺、名刺持ってなくて……」
俺が申し訳なさそうに口ごもると、紳士は快活に笑ってくれた。
「子供が気遣わなくていい。むしろ名刺なんて持ち歩いていたら生意気に思う人もいるだろう」
「あ、ありがとうございます」
さっきからフォローされてばかりが気がする。
いくら自宅ダンジョンがあっても、俺自身の基礎スペックは所詮しがない中学三年生なのだと思い知らされる。
元から億万長者だと調子に乗るつもりなんてなかったけど、おかげで身の程を知れた気がする。
「君が奥井育雄君かな?」
あらたにかけられた声に俺が振り返ると、そこには黒スーツ姿の若い男性が立っていた。
背は高く、180センチ以上あるだろう。
肩幅もしっかりしていて、プロスポーツ選手のような印象を受けた。
「……」
貴方は?
と聞こうとして、俺は何かを思い出しそうになる。
この人の顔は、どこかで見た気がする。
というか、毎日見ている気がする。
「これは加橋殿、先ほどは良い品を競り落としましたな」
紳士の言葉に、俺は思い出した。
――そうだ、この人、加橋に似ているんだ。
もっとも、目の前の男性には加橋のようないやらしさは微塵もない。
一言で言えば、【きれいな加橋】だ。
――ということは、この人がラビリエントの役員冒険者でAランク冒険者なのか。
小学生中学生が選ぶ、将来なりたい職業ランキング一位を前に、俺は感心してしまう。
夢を叶えた人。勝ち組。人生の成功者。
そんな単語が頭をよぎる。
――ん、あの剣は?
そこで、俺は加橋さんが腰に帯びている剣に注目した。
それは今回、俺が出品した剣だった。
「その反応、これは君が出品したもののようだね。大切に使わせてもらうよ」
さわやかなスポーツマンスマイルで白い歯を輝かせる加橋さんは、お世辞抜きでカッコよかった。
同じ兄弟で、どうしてこうも違うのか不思議でならない。
すると、加橋さんはふと手を差し出してきた。
「未来のスター冒険者と握手をさせてくれないかな?」
「いやいや、それはほめ過ぎですよ」
と、謙遜しながら、俺は社交辞令で手を出しておいた。
すると、加橋さんの手が力強く俺の手に食い込んだ。
――うぉ、ちから強っ。
小学生時代、柔道黒帯の担任と握手した時を思い出す。
「じゃあ私はこれで。奥井君、また会おう」
長居はせず、詮索をせず、加橋さんはクールに立ち去った。
――同じラビリエント社員でも違うもんだな。
デキる男は違うと、ちょっと尊敬してしまった。
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