第20話
帰りの列車の中で、俺は少しの不安が胸をよぎっていた。
――怪しまれているのか?
たとえば、バックに誰か大物がいるとか、最悪、どこからか盗んできた品だとか。
言い訳はいくらでもできる。
冒険者資格が無くても入れる田舎の個人所有ダンジョンを使っているんです。
隠し部屋を見つけたけど他の人に自然にバレるまでは独占したいんです。
どちらも違法ではない。
ダンジョンのルールは、オーナーである企業が独自に決めたものだ。
ラビリエント社のダンジョンを利用しないなら、その規定に縛られる理由は無い。
ただし。
――あの換金所、通学途中にあるから利用していたけど、他の場所で売ろうかな?
自宅ダンジョンを、一生隠し通せるとは思わない。
いつか、存在は公表しなければいけないだろう。
だけど、それは俺が大人になってから、あるいは、不動の地位を築いてからだ。
でないと、誰に悪用されるかわかったものではない。
どれだけお金があっても、俺はしょせん、一介の中学生に過ぎないのだから。
◆
翌日の火曜日。
登校すると、教室ではみんなが積極的に盛り上がっていた。
「ねぇねぇ、今朝のニュースでやっていたけど、最近工業系企業の株が伸びているんでしょ?」
「今から買っておいたらお金持ちになれるのかな?」
「なんであんなに成長しているんだろ?」
「評論家のコラムによると、最近、ラビリエント社がスーパーレアメタルを大量に流通させているからだってよ」
「スーパーレアメタルは世界中で奪い合うように取引されているからね。製品は常に供給不足の需要過剰。流通量はその国の産業の景気に直結するんだよ」
眼鏡をかけた男子が情報通ぶって喋ると、一部の生徒が感心した。
「ねぇねぇ、株ってどうやって買うの? 最近テレビでも資産形成とかNISAとか色々やっているし」
「あたしらが買えるわけないでしょ。大企業の株なんて一株何十万円もするんだから」
「え~、残念」
――中学生が株の話かよ……時代だな。
と、俺は現役中学生なのに、オッサン臭いことを考える。
もちろん、うちの学校が経済に強いというわけではない。
昨今、テレビもネットもあらゆるメディアが株やFXなど投資の重要性を謳い、若い頃からの資産形成で人生が決まると騒ぎたて煽って来る。
芸能人もその多くがSNSで情報発信をするせいで、ミーハーな生徒を中心に、投資の浅い知識で盛り上がることがあるのだ。
ちなみに、流行にうとい俺に投資をする気はない。
――そんなことしなくても一生分の生活費は稼いでいるしな。
「アタシらは無理だけど、加橋くんなら買えるんじゃない?」
「まぁな、これでも兄貴がラビリエント社の役員冒険者だし、関連企業の株はそれなりに持っているぜ」
「すっごーい♪」
女子に話をふられて、加橋は得意げだ。
もっとも、好景気なのは俺が毎日大量のスーパーレアメタルをラビリエント社で換金しているからだ。
俺が別の会社で換金すれば、株価は下落するだろう。
俺は自分の席に座りながら、加橋たちの陽気さを冷ややかに眺めた。
「そういえば加橋くんのお兄さん、ラビリエント社の正社員冒険者なんだよね?」
「三大企業のラビリエント社で働けたら一生安泰だよな」
「オレもラビリエント社の正社員冒険者になりてぇよ」
「流石加橋くんのお兄さんだよね。Aランク冒険者なんでしょ?」
「それだけじゃないぜ、加橋の兄貴は会社の運営にも口を出せる役員冒険者なんだ」
「なんでお前が自慢げなんだよ。でもいいよな、役員冒険者。小中学生が選ぶなりたい職業ランキング5年連続一位だしよ。加橋も将来はなるんだろ?」
「当然っ」
加橋は胸を張った。
「だよね、加橋くん、役員冒険者の弟だもん。ていうかもしかして、最近ラビリエント社がスーパーレアメタルの採取量増えているのって、もしかしなくても加橋くんのお兄さんのおかげ?」
女子からの問いかけに、加橋は背を逸らしてドヤ顔を作った。
「う~ん、どうしようかなぁ、流石にオレも、社内の詳しい内情までは他人に教えられないしなぁ」
「え~、いいじゃないおねがぁい、おしえてぇ♪」
ちょっと胸が大きめの女子から甘い声でおねだりされると、加橋はいやらしい目線で迷ったふりをする。
「う~ん、どうしようかなぁ、いやぁでもやっぱこういうことはきちんとしないと。でもまぁ、オレから言えることは、少なくともBランクやCランク冒険者ごときにスーパーレアメタルを採取できるわけもないし、となれば答えはおのずと決まって来るよな?」
『おぉぉおおおぉぉぉ!』
みんなが驚嘆の声を漏らした。
教室の中心で、周囲が自身の発言に一喜一憂するさまに加橋は快感の波が止まらないと見える。
顔のドヤ顔がいつにも増して犯罪的だ。
「なぁ加橋! お前がラビリエント社に入るとき、オレも入れてくれよ!」
「オレもオレも、兄貴に口利きしてくれよ」
「ていうかオレも冒険者学校行くんだ。パーティー組もうぜ」
「あたしヒーラーだよ! 加橋くん前衛だし、回復役いるよね!?」
加橋はクラス中の、そしてよく見れば隣のクラスの生徒たちからも取り囲まれてわっしょいされている。
なんと浅ましい光景だろう。
俺はできるだけ関わり合いを持たないように、教室を出てトイレに逃げ込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます