第16話 ダンジョンの正体って?

 それから、家具を購入して配送手続きを取った俺は、日記帳を買ってからコハクと一緒に遊んで回った。



 ボウリングでは、思いのほか高得点が出た。


 レベルが上がったことで運動神経、空間認識能力とかが向上したためだとコハクが説明してくれた。


 コハクはストライクが当たり前だったので、逆にわざとおかしなピンの倒し方をして、二投目でいかにして倒すか、という上級者過ぎる遊び方をしていた。


 俺は、流石にそこまでのテクニックは無くて、ストライク続きの俺のほうが得点は上だけど、ある意味勝負にならなかった。



 カラオケでは、コハクはプロ顔負けの美声を発揮。

 音痴の俺は歌うのが恥ずかしかったけれど、コハクは俺が歌っているところをみたいとおねだりしてきて、俺は恥ずかしいのを我慢して熱唱。

 案の定、コハクは笑っていたけど、悪い気はしなかった。



 映画はいま流行りのダンジョンミステリーものを見た。


 ダンジョンの中で起こる殺人事件の謎を、主人公の冒険者探偵が解決する、というものだ。


 ダンジョン管理人にダンジョンものなんて軍人に戦争映画を見せるようなものかと後悔するも、これは思いのほかコハクに好評で、満足してくれたようだった。



 映画が終わると、俺らは映画の批評がてら、喫茶店に入った。


 コハクは料理やスイーツの知識はあっても、実際に口にしたことはないらしいので、種類の違うものをいくつか注文しておいた。


「ダンジョンの中で殺せば遺体はモンスターに食べられて証拠は残らない。実際にありそうで怖いよな」


「だね。けど大丈夫、マスターはボクがいる限り、絶対に死なせないから」

「そりゃ頼もしいや」


 そこで、俺らが注文したスイーツの第一号が届いた。

 まずはドーム状のバニラアイスにチョコチップや果物をトッピングしたサンデーだ。


 コハクはさして興味もないように、さっさとスプーンをアイスに突き刺した。

 瞬間、彼女は目の色を変えた。


 おや、というような表情で、金属スプーンがじんわりとバニラアイスに沈み込んでいく感触を味わっていた。


 それからアイスをひとすくいすると口に入れず、まずは桜色のくちびるで白い表面にちゅっとキスをした。


 まるで、母親が赤ちゃんに飲ませる粉ミルクの温度をくちびるで計るように、まるでコハクは、どの程度冷たいのか計っているようだった。


「へぇ」


 それからぱくっと口に入れると、彼女のまぶたが数ミリ、口角は一センチも持ち上がった。


「なにこれぇ、冷たくてあまぁい♪」


 コハクは初めて食べたアイスクリームの味に感動して、幼い笑みを見せてくれた。

 その笑顔が可愛すぎて、俺は写真に撮りたくて仕方なかった。


 気が付いたら、実際撮っていた。


「何しているのマスター?」

「いや、記念にちょっと」


 俺がスマホ画面を見せると、コハクは声を弾ませた。


「あ、よく撮れてる。これ後でボクのスマホにも送ってね♪」

「お、おう」


 うまい言い訳をして誤魔化すことに成功。

 いまの写真は、俺のお宝フォルダに入れることにする。

 続いてチョコレートケーキが運ばれてくると、それもコハクは気に入ってくれた。


「あまぁい♪ おいしー♪ スイーツってみんなこんな感じなの?」

「まぁそうだな」

「ボクこれ大好き♪ 次来た時も食べたいな♪」

「じゃあまた来ような」


 ――いや、これってもしかして次のデートの約束していないか?


 思いがけないラッキーイベントに、俺は感情を表に出さないように必死だった。


 でも、こうしてただのサンデーやケーキに感動してくれるコハクに、ふとこれまでの彼女のことが気になった。


「なぁ、コハクって俺と会う前はどこで何していたんだ?」

「ん? あのダンジョンにいたよ?」

「でも、あのダンジョンができたのはついこの前だろ?」


 彼女は首を小さく横に振った。


「それはこの世界に出現した日だろ? ボクとあのダンジョンは、そのずっと前から存在はしていたんだよ」

「そうなのか!?」


 驚いて、思わず語気が強くなった。


 ――いや、待てよ!


「そういえばダンジョンてなんなんだ? 誰が作って、どうして世界に現れたんだ?」


 いまさらだけど、普通、ダンジョンには管理人なんていない。

 つまりコハクは、世界初にして唯一の、ダンジョン側の知的生命体だ。


 世界に突如現れた、物理法則を無視した正体不明の巨大構造物でありながら、世界情勢を中枢を担うダンジョンの正体が、目の前にあるかもしれないという状況に、俺は好奇心を抑えきれなかった。

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