第12話 自宅ダンジョンてマジで自宅にできる模様です
コハクがウィンドウを開くと、このダンジョンのホーム画面らしきものが開いた。
そこには、【ホーム】【検索】【階層】【配合】の他に【施設】という項目があった。
コハクが【施設】を押してから表示された【拡張・増設】という項目を押すと、施設一覧が表示された。
「おぉ」
画面いっぱいに、色々な施設の写真と名称が縦横に並び、タップすると詳しいスペックを見ることができた。
「大浴場、サウナ、シアタールーム、プレイルーム、和室、洋室、家庭菜園場、多機能キッチン、ベッドルーム……すごいな……ん、ポイント?」
「ダンジョンの拡張にはポイントを消費するんだよ。ポイントは魔石を消費すると貯まるよ」
魔石とは、モンスターの体内から回収できるビー玉のような石のことだ。
中には魔力が込められていて、現代ではエネルギー源やアイテム製造の材料として使われている。
「じゃあちょっとやってみるか」
俺はソシャゲをプレイするように、【ポイント】をタップ。
【消費】【チャージ】のうち、【チャージ】をタップすると、チャージ方法選択画面に遷移して、【魔石でチャージ】を選んだ。
それから使う魔石を選ぶと、魔石の量に応じてポイントが増えた。
「おぉ、結構増えるな。ん? 増設場所も決められるのか?」
俺がマップを開くと、一階エントランスの見取り図が出てきた。
ベンチ、カウンター、エレベーター、シャワー、トイレ、クロークなど、今更ながら使ったことのないスペースもあるなと思い知らされる。
「ポイントを消費すれば、内装も自由に変えられるよ」
「なんか箱庭ゲームみたいで楽しいな。これなら別に住み慣れた家をわざわと立て直さなくてもいいかな」
むしろ、派手で目立つ家に住めば、泥棒に入られそうで怖い。
こうして内装を充実させてダンジョンで人知れず優雅に暮らす。
なんだか、秘密基地みたいでワクワクした。
「あれ? コハクの部屋は?」
見取り図をいくら見ても、寝室や心室やコハクの部屋が見当たらない。
「無いよ」
「無いって、じゃあお前、俺がいない間、どうしているんだよ?」
「どうしているって、ボクはいつもここにいるじゃないか?」
「え?」
いまいち理解できない俺の前で、コハクはいつもの定位置に戻った。
エントランスの奥、カウンターの横に佇むと、そこで両手を前で重ねて背筋を伸ばす。
「だからいつもこうやってマスターが来るのを待っているんだよ。最近はマスターのくれたスマホで外の知識を勉強しているけどね。オークションもそこで知ったんだ」
「…………」
コハクの言葉を頭の中で反芻。
あまりに常識から逸脱した内容に、俺は嘘だろうと思いながら、だけど彼女が常識外の存在であることを思い出して、まさかという予想が頭の中で像を結んだ。
「そんなの駄目だ! 待っていろ、すぐにコハクの部屋を作るから」
「いいよそんなの。ボクはここでマスターの帰りを待つの嫌いじゃないし」
「俺が困るんだよ。俺が学校にいる間、女の子がずっとここで一人で立ちっぱなしで待たせているなんて耐えられるか」
「でもマスターのお出迎えしたいし」
「俺が帰って来る時間なんてだいたい決まっているんだから、時間になってからくればいいだろ? 午前や昼にここにいる必要ないだろ」
遠慮がちなコハクの言葉を無視して、俺は画面を操作。
廊下の奥に、十二畳の広い洋室を作った。
「ほい完成。じゃあ見に行こうぜ」
俺はコハクの手を取ると、廊下の奥まで引いた。
すると、突き当りに今までなかった木製のドアが設えられている。
真鍮製のドアレバーを回して押し開けると中は白い壁に赤絨毯の布かれた部屋が広がっていた。
ダンジョンの中なので窓は無いも、部屋は広く天井は高いので、閉塞感は無い。
家具が無いため殺風景だけど、あとで買いそろえればいいだろう。
「今日からここがコハクの部屋だ。俺が学校に行っている間は、ここで好きに過ごしてくれ」
振り返ると、コハクは幸せを嚙みしめるような、深い、じんわりとした笑みを浮かべていた。
「喜んでくれたみたいで良かったよ。やっぱ、自分の部屋があると嬉しいだろ?」
けれど、コハクは目を閉じて、小さく首を横に振った。
「ううん、違うよマスター。ボクはね、部屋ができたことが嬉しいんじゃないだ」
輝く大きな瞳を開いて、彼女は慈しむような眼差しで、俺を見つめてくる。
「ボクはね、キミがボクのためにしてくれたことが嬉しいんだよ……ありがとう、マスター」
普段の無邪気で小悪魔的な彼女からは考えられない、柔和な表情と声音に、俺は心底魅了されてしまった。
いってきますと言えば、いってらっしゃいと返してくれる。
ただいまと言えば、おかえりなさいと返してくれる。
何かしてあげると、笑顔でありがとうと返してくれる。
そして自分はここにいると、大好きだよと言ってくれる。
俺は、自分の中に芽生えた感情を形にしたくて、思い切って口を開いた。
「じゃあ、部屋だけあっても仕方ないし、家具、買いそろえに行こうか? その、俺と一緒に……」
彼女の返事を、まるで一世一代の告白の返答のようにして、俺は固唾をのんで待った。
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