第26話 爆発

「今回の茶会は雨札の動向を探ったが………。」

 対波が立原親子への必死の弁解を終え、会場の片付けを済ませた聖達は警葬監視操行部隊の寮へと戻ってきた。やはり食堂の温い空気が落ち着く、できればもう政府官邸になど行きたくない限りである。と、聖が考えていると茶会での出来事や発言を纏めた書類を見ながら、絣が苦い顔をして話を切り出した。

「正直、状況としてあまり歓迎できない。毒瓦斯の機器は雨札邸に設置したままにするらしいが、警備が下手したら三倍だ。しかも向こう側からの信頼無し政府の人間も信用しないから有端を使っても正直微妙と来た、長期戦を覚悟しなければならんな」

 あの男はかなりみみっちいぞ、と茶会で雨札之徒の人となりを見定めたらしい絣が溜息を吐く。

「僕が正しい結末へ導いてやる。だからそれまで大人しくしていろ。雨札之徒との関係を築かねばもう話にもならん。毒瓦斯制御機器はおろか屋敷にも立ち入らせないだろうあの男は」

「絣、具体的に何日かかる?」

「さあ、急に接近しても不審がられる。上手くやっても十日は要るだろう」

「十日か………。」

 長いな、と楔が頭を掻いた。鳥籠からの脱出には期限が無い。いつまでに脱出しなければ、なんてものはないのだから幾らでも時間はある。だが、漸く脱出ができる未来が見えてきたのに先延ばしにしなければならない楔はかなり歯痒く思っているだろう。

「それから聖………。」

 絣が聖に何かを言いかけて、窓の方へ鋭く視線を向けた。

「何ですか、この音」

 聖は、唸る様な低い音が聞こえた気がして耳を澄ませた。バチ、と何かが爆ぜる様な音がして、焦げ臭さが鼻を刺激する。これは………。

「伏せて!」

 灯が叫び、立っていた絣を押し倒して地面に伏す。それと同時に窓硝子が粉々に割れ、光を反射して淡く虹色に光った………。その一秒に満たない輝きを上から塗り潰す様にどす黒い熱風が襲う。それは肌が焦げ付く様な熱と衝撃を伴い、無風の室内に舞い込んだ。



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「全員居るな」

 指差しで人数確認をする楔。聖達は室内から脱し、黒煙の届かない外まで出た。非常時の脱出経路は頭に叩き込まれたので時間もかからず、負傷者と言えば絣が押し倒されたときに手の甲を擦りむいている程度。窓硝子の破損以外に警葬監視操行部隊寮への被害はなさそうだが、これは被害が無かったと喜べる事態ではない。

「何が、起こってるんですか」

 貴族区が、燃えていた。一部の地面が陥没し、炎が揺らぎを見せて啼いている。喉を焼く熱風はひゅうひゅうと音を立てて炎を煽る。火花が咲き誇るここはまるでお花畑だ。三途の川の向こう岸には花が咲いているとは言うが、地獄の花を現世で見る事ができるとは素晴らしい事で全く嬉しくない。寧ろ絶望的だ。

 貴族区には、燃えやすい物が多い。札束の山に点火すれば炎はもっと勢いを増す。この火事で出る損害は計り知れないが、政府の財政は間違いなく傾くだろう。既に死人が大勢出ている。崩壊する屋敷の下敷きになるのを見た。

「恐らく、爆弾だな」

「どこか、まだ設置されている可能性は?」

「ないね、恐らく自爆テロだ。これは古い手法を使ってきたもんだ」

 そう絣に聞いた楔はそうか、と頷くと、短く言う。

「行くぞ」

 心なしか、その声はいつもより低く冷えていた。



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 生き残った貴族を救助し、政府区まで避難させた聖は額の汗を拭った。

 監視飛行機械が放水を行い炎は鎮火していっているが、まだ熱の余波は残っている。貴族区の大通りが倒壊した屋敷で埋まり、民衆区を思わせる惨状だ。これは後日瓦礫の撤去に駆り出される事になるだろう。

「御比さん、結局これ何があったんです?」

「自爆テロだってさ、楔さんが誰かしら縊り殺しそうな勢いで怒ってた」

「縊り殺すって………。」

 その言葉で苦笑いする聖に、御比も困った顔をしながら笑う。すると御比の肩に背伸びして顎を乗せた淡利が言った。

「隊長理由ない巻き込み殺人が一番嫌いだからな!罪償わない自爆テロが多分一番嫌いだろうし。逝くなら痛くない様にしてやっからせめて罰を受けろ首斬らせろォ!ってブチ切れてたぞ!」

「後半だけ聞くとただの狂人みたいですね」

「聖それは聞き捨てならないからな!?」

 楔さんは狂人じゃない!凄い人だから!という御比の主張に「はいはい知ってます知ってます」と受け流す聖に話に混ぜろと御比の背中をよじ登る淡利。保護者の御比が居る所為で寄って来る緋と嵐のお陰で聖を取り囲む環境が混沌を極めて来た。早い所抜け出したいが、御比が放してくれない。常識人の筈のあなたが混沌の発生源になってどうする!?と心の中で絶叫する聖。やはり放してくれない御比。

「だってすぐ目の前で見てるだろ聖は!!あの首斬りの綺麗さ異常だからな!?」

「やめてください御比さんそれトラウマですから!見ましたけど!」

「出た隊長の剣技好き過激派」

「正気を完全に失っている………。」

「この剣技語りが一時間以上続く確率79%かなぁ」

「そんな恐ろしい確率出さないで下さい!!」

 興奮気味に言う御比に捕まったままの聖は例の首斬りの場面を思い出して耳を塞いで頭を抱える。淡利と嵐、緋は巻き込まれまいとしているのか普段は騒がしい彼らが静かに遠くから見ている事に軽く殺意を覚えた。寄ってきたならこの地獄も僕と共に味わえこの外道め………!という言葉を喉で押し殺し、聖は三人を睨み付ける。

 三人はそっと目を逸らした。

 聖は終始三人を呪っていた。

「まあ、こんなとこか」

「あれ?意外にまだ十分ですね」

「あー、興味のない奴に無理矢理押し付けて長く語っても嫌いになられるだけだからな」

「良識のあるファンだった!!」

「えー?俺たちいつもめっちゃ語られる可能性99%なのに?」

「吐き出したい時だってあるんだよ」

「毎日じゃん」

  

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