第8話 訴えてやるぁあああああああああああああ!
だから俺は、クレアに自分の気持ちを伝えることにした。
「うん、そうだな」
頷いてから、クレアの手をつかみ、頬から離させる。
「じゃあさクレア、代わりに、俺からもひとつお願いしていいかな?」
「何よ?」
小首を傾げる彼女に、俺は告白した。
「クレアの夢を、俺の夢にしてもいいかな? 魔法が特殊技能じゃない世界。誰でも魔法が使える世界なんて、すごい夢があるだろ? だから、俺もその手伝いがしたい」
それが俺の本音だった。
クレアに夢を叶えて欲しい。
クレアの革命を成功させてあげたい。
誰もが魔法を使える世界を、俺は見たかった。
彼女の口元に、笑みが走った。
「ふふ♪ 当たり前でしょ。言われなくても、こっちはあんたを巻き込む気、満々なんだからね♪ さぁアレク、明日も忙しくなるわよ。炎の杖や雷の杖だけじゃない、もっと他のマジックアイテムもガンガン作って、改良して、富裕層に行きわたったら徐々に値段を下げて、庶民にも普及させるの。そして」
力強い声と共に、彼女の優美な手が差し出された。
「あたしたちの手で! この世界にイノベーションを起こすのよ!」
クレアの瞳には強い意志が込められていた。
彼女の言葉が俺の胸を打つ。
俺はやる気に燃えた。
こんなことは、徴兵されて、魔王軍との戦いに胸を高鳴らせていた頃以来だ。
白くて細い、けれど頼りがいを感じさせる、世界を変える手を握る。
そうして俺とクレアは、熱い笑みを交わし合った。
◆
次の日。
俺は、クレアと一緒に王都の表通りを散策していた。
というのも、将来、俺らのマジックアイテムを入荷してくれそうな店を探すためだ。
ついでに、うちで働いてくれる、霊木と魔石の加工職人も見つけたかった。
けれど、そこで目にしたのは、あまりにも絶望的な光景だった。
王都でも比較的有名な、大型の武具店。
そこの魔法の杖――マジックアイテムではなく、魔石に魔力を溜めておける従来のモノ――の売り場の横には、こんなポスターが吊り下げられていた。
【これぞ夢の武器! 魔力を通すだけで火炎魔法を使える灼熱の杖! 来月緊急発売!】
どう見ても、クレアが発明した炎の杖の盗作だった。
しかも、値段は炎の杖よりも、金貨一枚分安い。
明らかに、俺らの商品を潰しに来ていた。
でも、怒りが全身を駆け巡ろうとして、俺は自分を抑えた。
俺らの目的は、金儲けじゃない。
マジックアイテムを普及させて、魔法を庶民の手に下ろすことだ。
なら、俺ら以外の人が参入してくれるのは、歓迎すべきことじゃないか。
クレアの崇高な理想を汚してはいけない。
そう自分に言い聞かせて、俺はクレアに声をかけようとした。
よかったな、俺ら以外にも仲間がいたな。
そう言いたかったのだけれど……。
「な、なによこれぇえええ~~~~~~」
クレアは、烈火のごとく怒り、両目を吊り上げてわなわなと震えていた。
「あの……クレアさん?」
彼女の口が、火を噴くドラゴンのように大きく開いた。
「訴えてやるぁあああああああああああああああああああああああああああ!」
め、滅茶苦茶怒っていたぁああああああああああ?
「あの……確認だけど、クレアはマジックアイテムを普及させたいんじゃ……」
「野望は自分の手で叶えないと意味ないでしょうが!」
あ、そういう……。
気持ちは分かる。俺だって、聖剣を他人のマルスに抜かれた時はショックだった。
クレアがそういうスタンスなら、俺も気兼ねなく怒れるけど、なんだろう、クレアの迫力が凄すぎて、怒り方が分からない……。
今のクレアからは、魔王軍幹部でも張り倒しそうな、煮え滾る覇気を感じる。
「お客様! どうかされましたか!?」
間の悪いことに、怒れるドラゴンの前に無辜の店員さんが現れた。
「うおらぁああああああああああああ!」
バーサーカーのように猛り狂いながら、クレアが拳を振りかぶる。
「ひぃっ!」
「待てクレア! 暴力沙汰は駄目ぶごぁっ!」
クレアの拳が、俺の顔面にめり込んだ。
目の前が真っ暗になって、鋭い痛みが鼻から後頭部に抜けていく。
遅れて鈍痛がジンジンと響いてきた。
怯えた店員さんの声と、足音が遠ざかる。
そのまま逃げて下さい。
この蛮族よりも好戦的な、バーサーカーのいない安全地帯まで。
そこで、俺の意識はぷっつりと途絶えた。
ああ、本当にクレアは、昔とちっとも何も変わっていないんだなぁ……。
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