第7話 あたしの、じゃなくてあたしらの、だからね
それから三か月後。
空の青さが際立ち、蝉が歌を歌う暑い七月。
炎の杖や氷の杖などのマジックアイテムの需要は、さらに伸びていた。
最初は、
攻撃魔法を使えないヒーラー。
歩兵。
傭兵。
魔法に憧れていた庶民。
サーカス関係者。
劇場関係者。
そして自分で魔法を使ってみたいという貴族。
の、一部の人が買うだけだった。
でも、人は他人が持っていれば自分も欲しくなるもの。
今では王都中のヒーラーや歩兵傭兵に興行主、魔法好きの人がマジックアイテムを買い求めてきている。
攻撃魔法を使うヒーラーを見たヒーラーは、自分も攻撃魔法を使いたくなるというわけだ。
必然的に、俺らは魔法の杖を作っては売り続ける日々を過ごしていた。
一応は武器職人でもある俺が、霊木を削って杖のシャフト――魔石以外の部位で外見上は杖本体に見える――を作り、クレアが魔石の加工と魔法式を組み込む分業体制で、魔法の杖の生産性は一気に上がった。
それでも魔法の杖は常に売り切れ状態で、予約は一か月先までいっぱいだ。
意外と原価は安く、俺ら自身が作っているので人件費もかからないこともあり、俺とクレアは億万長者になっていた。
そのせいか、クレアはこんなことを言い出した。
「にしても、随分貯まったわねぇ」
自宅の地下室に金貨袋を投げ入れてから、クレアは感心したように息を漏らす。
「二号店でもオープンする?」
その話を、俺はシャフトに魔石を取り付ける作業をしながら聞いていた。
二号店……これだけの金があれば、それも簡単だろう。
いやらしい話、この三か月で俺らは荒稼ぎをした。
まじで儲かっている。
クレア家の地下室には、金貨でいっぱいの大袋が山と積まれている。
すでに、一生遊んで暮らせるだけのお金は稼いだろう。
ただし、俺にはその実感がない。
元々の性格なのか、それとも見たことも無い金貨の山に理解が追い付いていないのか、とにかく、俺はその金で豪遊しようとかは、一切思わなかった。
着るものはいつも通り、食べるものはクレアの手料理とスイーツ以外はいつも通り。金貨は、あくまでもクレアの革命が成功している度合を示す数字としてしか認識していない。
それはクレアも同じなんだろう。
元からオシャレには興味のない女子だったけど、彼女の生活ぶりは少しも派手になっていない。
毎日、喜んで杖作りに邁進している。
その辺りから、彼女の誠実さというか、品格のようなものを感じる。
……言動は暴力的だけど……。
「ねぇアレク聞いているの?」
「ん、ああ」
シャフトに魔石を取り付ける作業を中断して、俺は顔を上げた。
「これだけあれば、王都中央区の表通りにだって出店できるわよ。どお?」
クレアはテーブルに両手をついて、前のめりになりながら提案してくる。
でも、俺は首を横に振った。
「いや、それはやめたほうがいいだろうな」
「? なんで?」
クレアは、きょとんとしながら疑問符を口にした。
そんな彼女に、俺は噛んで含めるように説明する。
「いくら需要が伸びているって言っても、食料品や家具、服飾と違って魔法の杖を買う人は限られているからな。老若男女あらゆる人が通る表通りにこだわる必要はない。クレアの杖は、その界隈じゃあ十分有名だから、目立つ場所に店を構えなくても客は来る」
「へぇ、意外。商人てみんな、全国展開を目指しているんだと思っていたわ」
クレアは背筋を伸ばすと、顔の輪郭に手を添えてながら驚きを口にした。
まぁ、普通の人からしたらそう思って当然だろう。
商人は商売を成功させるために生きているし、商売を成功させた大商人たちは町中に、国中に、世界中に支店を持っている。
でも……。
「業種によりけりだよ。それに事業を拡大するリスクもあるしな。店舗を増やすと店の維持費、人件費もかかる。それにクレアは商人じゃなくて魔法使い。夢は魔法を庶民の手に下ろすことなんだろ? じゃあ、お前が目指すべきは世界一の武器屋じゃなくて、そうだな……」
うつむき、腕を組んで一考。
それから、頷いて顔を上げた。
「世界一の、【武器メーカー】かな」
俺の言葉に、クレアは目を丸くして固まった。
でも、それはほんの数秒。
すぐに表情をゆるめると、嬉しそうに息を吐いた。
「……はは、やっぱりあんたと組んで良かったわ。あたしにはそういう冷静な分析ができないもの。でもそうね、あたしはあたしらのマジックアイテムで世界を変えたいだけだもの。あたしら自身が店を全国展開する必要はないわ」
「そうそう、お前の杖の販売はすでにある各種店舗に任せればいいんだよ。だから、今以上の量産体制を整えて、卸売り業を考えようぜ。まずはうちの店の工房を増築して、シャフトと魔石の加工を出来る人を雇うんだ。そうすれば、クレアは魔石に魔法式を組み込むことだけに集中できるだろ?」
俺の提案に、クレアも乗り気になる。
「そうね、でもアレク、ひとつ訂正させてくれるかしら?」
クレアは歩み寄ってくると、俺の頬をつまみ、語気を強めて言った。
「あたしの杖じゃなくて、あたしらの杖だから」
人をたしなめるような物言いに、俺はちょっと嬉しくなる。
クレアの、じゃなくて、俺らの、か。
炎の杖を使った時の感動が蘇る。
昔、俺が魔法を使えなくて泣いたのを見て、クレアはマジックアイテムを作ってくれた。
マジックアイテムが広まれば、誰もがあの感動を味わえる。
そしてもう、俺みたいな奴は生まれなくなる。
だから俺は、クレアに自分の気持ちを伝えることにした。
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