第25話
「本日を以って、聖剣エクスカリバーの所有権を、桐生朝俊へと移譲したことを認める!」
誰もが驚愕の声を漏らしてから、龍臣は食って掛かった。
「お待ちください姫! エクスカリバーは龍崎家に伝わる家宝! 所有権は我ら、龍崎家にあるはずです! いかに姫様と言えど、個人の財物を他人へ移譲する事はできない筈です!」
「所有権、そして財物か」
姫様の瞳が、冷たく細められた。
「ならば問うが、初代勇者は、エクスカリバーを選定の台座より引き抜き所有権を得た。本来の持ち主と言うなら、初代勇者の墓に埋葬するか、天へ返す意味で教会で保管すべきだろう」
「それは……」
「そも、初代勇者とて、聖剣はただ拾ったようなもの。正式に誰かから贈与されたり買い取ったわけではない。聖剣に【選ばれて】所有権を得たのなら、新たに選ばれた桐生朝俊二等兵に所有権が移るのは妥当と考えるが、私は間違っているか?」
「ぐっ……」
――姫様、上手いな。
姫様は、主語を俺ではなく自分にした。
つまり、ここで所有権を主張すれば、龍臣は姫様を否定したことになる。
「それでもなお不服だと言うのならば、回収するがいい。貴君らにそれが叶うのなら、だがな。朝俊二等兵、聖剣を地面に突き立てろ!」
「あ、はい!」
鋭い声に、俺は有無を言わず、反射的に地面に突き刺した。
龍臣は、やぶれかぶれの勢いで聖剣をつかむと、しゃにむに引っ張った。
けれど、聖剣は地面と一体化したように、ビクともしない。
もう、なりふり構わず、腰から抜いた短剣で地面を掘り返して持ち帰ろうとするも、ナイフは、地面に跳ね返された。
どうやら、聖剣が刺さると、周囲に地面は特殊な力場で守られるらしい。
確かに、掘り返して抜けるなら、レガリアの意味がない。
そして、これまでの態度から察するに、きっと、龍臣は自分では聖剣が抜けないことを知っていたんだろう。
桜月は、龍臣のことを、『勇者に憧れすぎて、妄執に憑りつかれている』と評した。
もしかしなくても、聖剣を抜けないことが、その原因だろう。
「朝俊二等兵、聖剣を抜いてくれるか?」
「はい」
地面を掘り返そうと躍起になる龍臣が見上げる前で、俺は聖剣を引き抜いた。
龍臣は、唖然として、その場にへたり込んだ。
「見ての通りだ龍臣。それに、これまでの映像は全て、ネットでLIVE配信されている。国内に、貴君らを聖剣の持ち主と認める者がいれば良いな」
龍臣に続いて、辰馬も意気消沈して、その場に倒れこんだ。
王子は、不機嫌そうに踵を返すと、その場から逃げるように立ち去った。
その背中を見送ると、姫様は高らかに言った。
「では桐生朝俊二等兵。これで貴君を正式に軍曹に、と言いたいところだが、これだけの大勢の前で勇者家を降し、聖剣を手に入れたのだ。軍曹では役不足だろう。本日を以って、貴君を下士官の最上位、曹長へと昇格させる! 以後、励んでくれたまえ!」
「俺が、曹長!? は、はい、謹んでお受けいたします!」
二等兵から曹長。
四階級特進どころか、五階級特進だ。
それ以前に、俺が聖剣に選ばれた?
あまりにも突拍子もない事態に、喜びよりも困惑が先立つ。
姫様に慌てて敬礼をしてから、俺は喜んでいいのか教えを乞うべく、桜月へと視線を向けた。
すると、彼女は、俺の出世を心底嬉しそうに喜んでくれていた。
五階級特進よりも、聖剣に選ばれたことよりも、彼女が喜んでくれたことで、俺は嬉しい気持ちになれた。
満面の笑顔で親指を立ててくれた彼女に、俺は抱き着きたくてしょうがなかった。
◆
決闘が終わると、俺は魔剣を桜月に返してから、彼女と一緒にホテルの部屋に戻った。
「まったく、流石だね朝俊。聖剣に選ばれるなんて、キミはコナタが思った通りの人だよ」
桜月は、上機嫌に声を弾ませながら、リビングへ入る。
その背中に、俺は意を決して声をかけた。
「桜月」
「ん、どうしたんだいあらたまって?」
振り返った彼女と視線を合わせて、俺は、ずっと胸の中で温めていた言葉を口にした。
「お前のことが好きだ……俺は、お前の彼氏になれるかな?」
時期尚早かもしれない。
この告白が原因で、関係が壊れてしまうかもしれない。
でも、俺は言いたかった。
むしろ、彼女からたくさんの勇気を貰っている今の、この勢いに乗らないと、告白なんて一生できない気がして、そっちのほうが怖かった。
すると、俺の告白を聞いた桜月は、月色の瞳をまたたかせて、きょとんとした。
かと思えば、桜色のくちびるに、にやぁっとした笑みを浮かべた。
「ふぅぅん、そぉなんだぁ」
月色の瞳を半月型に細めて、うきうきと肩を弾ませて、俺の顔を覗き込んできた。
「じゃーあぁ、コナタのどこが好きなのか、具体的に教えてよ」
「え?」
「ほらほらぁ、遠慮せずに、言っちゃいなよぉ。ん? んん?」
肘でわき腹を小突きながら、桜月は、俺を手の平で転がすように追い詰めてきた。
事実、壁際に二歩、三歩と後ずさって、背中が壁に着いた。
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