第12話
「じゃあ一緒に帰ろうか」
「え?」
論功行賞が終わると、桜月は解散する生徒たちに混じって歩きながら、無邪気な顔でケロリとそう言った。
「上層部と話をつけるって言っただろ? この作戦が終わるまで、キミはコナタの副官だ。一人軍隊でも、コナタは魔界軍司令の少将様だ。和銅市に間借りしたホテルの一室をあてがわれたよ。幸いスイートルームでベッドも二つある」
桜月はVサインをチョキチョキと動かして、誘うように微笑んだ。
甘い声音に、背筋がゾクリと震えてしまう。
「そ、それって……」
「コナタは先に戻っているから、今すぐ私物を持って、あのホテルの十五階にある一五六室へ来るんだ。待ってるよ」
「いやちょっ、それはマズイと思うんだけど!」
俺の言葉なんて聞かず、桜月はぺろっと舌先を出して、肩越しにウィンクをくれた。
「心配しなくても変なことなんてしないよ。眷属が主人と過ごすのは当然のことじゃないか」
そのセリフは男子が言うんじゃないかな? と心の中でツッコミながらも、俺の顔は熱く、何かを期待せずにはいられなかった。
◆
桐生朝俊と分かれた後、都城桜月は上機嫌に鼻歌を歌い、ステップを踏みながら、ホテルへ向かう道路を歩いていた。
けれど、人通りが消えると、不意に表情を消して、スナイパーのように周囲を警戒した。
そうして誰もいないことを確認してから、魔法で魔界と通信を始めた。
適性とは関係なく、魔法の才ある者が訓練で使えるようになる、通信魔法だ。
ウェアラブルデバイスによるハンズフリー会話と性能は変わらないが、故障、圏外、傍受の心配はない。
暗殺者のように無感動な、そして酷薄な声で、彼女は通信相手の質問に、淡々と答えた。
「……ああ、何も問題はない。心配しなくても、計画は順調だよ」
そんな彼女も、次の質問には、眉をひそめて鼻で笑った。もしも煙草を吸っていたら、吐き捨てていただろう。
「はっ、察してくれよ。魔族が歓迎されるわけないだろ? でも安心していいよ。実は忠実な【ワンコ君】を一人見つけてね。しかも、魔界でもほとんどいない水属性だ」
口角がわずかに上がり、金色の瞳が光る。
「その上、都合のいいことに生まれつき魔力がないと来ている。彼はコナタを頼らざるを得ない。裏切りはあり得ないよ。…………ははは、でないと、少将の地位を与えてまでコナタを人間界に派遣した魔王様に申し訳が立たないさ」
声を潜めて、彼女は囁いた。
「大丈夫、計画は忘れていないよ。すべては我ら魔族の世界のために。だよね?」
通信を切ると、ふと桜月の瞳に、一匹の白猫が留まった。
道路に横たわる白猫は肩を深く切り、赤い血を滴らせている。
彼女は目の色を変え、声を弾ませた。
「今夜はごちそうだねぇ」
桜月の口角が、奥歯がむき出しになるほど上がった。
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