第10話 現代の勇者!
「みんな! この場を借りて約束しよう! 五大都市の一角、文禄市を実効支配しているレヴナント大幹部、三大公の一人、タルタロスはオレが倒す! そして邪悪なレヴナント共を率いる巨魁、ノーライフキングを討ち滅ぼし、人類を救ってみせる! 初代様の跡を継ぎ、ハイヒューマンの頂に昇るのは、このオレだ!」
広場中が、熱狂に渦に吹き荒れた。
誰もが声をからすほどに叫び、両手を上げて飛び跳ねる人までいた。
どうして急に? と思う反面、本心では、みんな疲れていたんだと悟る。
五年も負け続けて、今日は自分たちでレヴナントの恐ろしさを知って、希望に飢えていたんだろう。
みんなにとっての龍崎は、俺にとっての桜月みたいな存在なのかもしれない。
彼女のことを意識した途端、また、すぐに会いたくなってしまった。
誰もが新ヒーロー誕生の予感に興奮する中、俺は独り、静かにうつむいた。
姫様が声を張り上げる。
「そして最後に! 本日のMVPを紹介したい」
『え?』
と、広場がどよめいた。壇上の龍崎も、ぎょっとして姫様を注視した。
「その者はレヴナント幹部、魔道師ネグロを単独で討ち倒し! 明日、解放作戦を予定していた文禄市南区を一日で救った! そこで、異例中の異例ではあるが、その者を四階級特進させ、【軍曹】とすることにした! 第二少年兵大隊所属! 桐生朝俊! 壇上へ!」
「え? 俺?」
同級生たちが悲鳴を上げる中、俺はまるで実感が無かった。
何せ、魔力も魔法神経も、桜月からの借りものだ。
仮初とはいえ、活躍できたことへの達成感はあるものの、自分の功績だとは思わない。
「どうした桐生! 壇上へ上がるがいい!」
「は、はい!」
言い訳をしている暇はない。
姫様に促されるまま、俺はみんなの間を通り抜け、階段を上った。
――壇上に上がるなんて、人生初めてじゃないか?
緊張と言うか、場違い感に戸惑い、俺は落ち着きなく、キョロキョロと辺りを見回してしまう。
「桐生朝俊。此度の働き、見事であった!」
姫様の勇ましい視線が、真っ直ぐに俺を見つめた。
桜月とはまた違うタイプの美人に、ちょっと見惚れる。あくまでちょっとだけ。
「貴君を四階級特進させ、軍曹に任ずる。以後、人類のために励んでもらいたい!」
ここで眷属の話をしても、場の空気が悪くなるだけだ。
後で昇格を取り消されてもいいから、とりあえずこの場は素直に受けておこう。
「はい。謹んでお受け致します!」
「お待ちください!」
俺が姫様に頭を下げるや否や、背後から怒声がかかった。
声の主は、まだ壇上に残っていた龍崎だった。
女子ウケする碧眼を怒りで吊り上げ、口元を歪めながら、龍崎は抗議した。
「魔導士ネグロを討伐したのは、魔界軍司令官、都城少将と聞いていますが?」
「その都城少将からの報告だ。証拠映像もある。少将殿はいるか?」
「はいはーい」
聞きたかった声の持ち主を探すと、上官たちの奥から、桜月が悠然と歩いてきた。
彼女が壇上に上がると、広場がどよめいた。
魔族を目にするのが初めての人も、まだ大勢いるらしい。
「これは、一部の魔族が使える上級記録魔法だよ。キミらのデバイスでやる視界録画の魔法版かな。デバイスと違って加工できないのが特徴だね。じゃ、再生開始」
桜月の言葉に合わせて、壇上の背後に、映像が映し出された。
まるでそこに、巨大スクリーンでもあるかのようだ。
映像は、どうやら桜月の視界らしい。
俺とネグロが戦う姿が、一人称視点で流れる。
俺が過熱水の爆撃でレヴナントの集団を一掃して、ネグロの遠距離魔法を水柱で防ぐ。暗闇に包まれて、晴れたときには、氷壁に封じられたネグロの胸板を、俺のアクアブレイドが貫いていた。
過熱水で頭を吹き飛ばして、トドメを刺すと、ネグロは雲散霧消していく。
そこで、映像は途絶えた。
自画自賛になるけど、アクション映画の主人公顔負けの活躍に、ちょっと照れた。
――まぁ、桜月の眷属になったおかげなんだけどな。
俺一人なら、ただの洗濯水筒係りがせいぜいだ。
軍事学校から集められた生徒や上官たちは軽く動揺しながら、隣近所と嫉妬や賞賛の言葉をささやき合う。
人間だけでなく、エルフやドワーフ、オーガやホビット軍の上官たちも、感嘆の声を漏らした。もしかすると、幹部であるネグロを単独で倒した俺を見に来たのかもしれない。
「彼はハイヒューマンか?」
と噂し合っている。
その様子に龍崎は、悔しそうに歯を食いしばって、眉間にしわをよせている。
――あれ? もしかして龍崎って自分が一番じゃないと満足できないタイプか?
俺の無能ぶりを知らない他校の生徒たちの中から、「勇者みたい」「龍崎よりすごくね?」という声が聞こえると、龍崎は、俺のことを力いっぱい指さし喚いた。
「騙されてはいけません姫! 水魔法にあんなことができるわけがありません!」
――まぁ、普通に考えたらそうだよな……。
水魔法はハズレ属性。それが世間の常識だ。
「それに、噂では、その男は魔力がないことを儚んで人類を裏切り、魔族の眷属に堕
ちた罪人で、この力も魔族からの借り物です!」
龍崎の物言いに、俺は怒りで頭に熱を帯びた。
確かに、アレは俺の力じゃない。
でも、桜月への差別発言は聞き逃せない。
五〇〇年間、魔族は悪と恐怖の象徴だった。
俺は元から興味が無いからどうでもよかったけど、昨日までなら、魔族が悪く言われても何も感じなかっただろう。
でも、桜月の善良性に触れた今は、まるで身内が攻撃されたような怒りを感じてしまう。
今すぐにでも龍崎を殴り飛ばしたい衝動と、公衆の面前での問題行動は桜月にも迷惑をかけるという理性がせめぎ合う。
それでも、表情までは抑えられなかった。龍崎が俺を睨みつけてきた。
「桐生、なんだその反抗的な目は!? 仮にも勇者一門、龍崎家嫡男であるオレに意見しようと言うのか? 立場を弁えろ! 姫様の御前だぞ!」
――なんなんだこいつ? こんなのが勇者の一族なのか!?
人間国は、一五〇年前に身分制度が撤廃されている。
王族は国の象徴として残っているものの、権限はない。
家名を盾に恫喝したり、姫様の名前を出して威圧するなんて時代錯誤も甚だしいし、何よりもズルくて卑怯だ。まともな人間のやることじゃない。
――いや、元から人間なんてそんなものか……。
幼い頃からイジメられてきた人生を振り返って、怒りと虚しさがないまぜになりながら、俺は握り拳を固めた。
その直後、桜月が俺を守るように、龍崎の前へと進み出た。
「さっきから聞いていれば、随分な物言いだな。お前、何様だ?」
――桜月?
普段の彼女じゃない。
敵意を剥き出しにして、今にも龍崎を切り殺しそうな迫力があった。
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