第9話 論功行賞!

 その日の夕方。


 俺と桜月が奪還した文禄市南区には、大人の部隊が布陣した。


 交代に、俺ら少年兵大隊は、朝に布陣した国営公園まで下げられて、労いの夕食が配給された。


 味気ない携帯食料ではなく、特殊調理車両である野外炊具5号によって炊かれた米と加熱されたルーによる、牛肉たっぷりビーフカレーだ。


 おいしい物は、体だけでなく、心の栄養にもなる。

 みんな、辛い初陣の疲労から、早くも立ち直り始めたように見える。


 一方で、上層部への報告のためにと、桜月と分かれることになった俺は、早くも寂しくなっていた。


 今までだって散々独りで生きてきたのにと、情けなく思う。

 人は、好きな人ができると強くなる半面、弱くもなるのだと実感させられた。

 それから、夕食が済むと、俺らは広場に集められた。



 今回の作戦では、三つの軍事高校から、生徒たちが招集されている。


 俺らは少年兵第二大隊で、別の高校から集められた生徒で編成された、第一大隊と、第三大隊も集められて、広場は一五〇〇人近い新兵で埋め尽くされた。


 広場に設営された檀上の周りには、上官たちが集まっている。


 その中には、何故かエルフやドワーフ、オーガやホビット軍の人たちも混ざっていた。


 しばらくすると、灰色のスーツを着た、金髪の美少女が壇上へ上がっていく。

 どこかで見た顔だと思っていると、周りからひそひそ話が持ち上がった。


「おいあれ、姫様じゃね?」

「ほんとだ、姫様だ」

「そういえば姫様って軍属だっけ? まさかあたしらの上官だったの?」


 軍隊は巨大な組織だ。


 複数の小隊が集まって中隊を、中隊が集まって大隊を、大隊が集まって連隊を、という具合で、それぞれの部隊に隊長がいる。


 その顔と名前を把握するのは難しいし、新兵ならなおさらだ。


 姫様は、威厳のある顔でマイクを手にすると、俺ら全員を見回して、広く遠くまで語り掛けるように話し始めた。


「初めまして、になるのかな。私は貴君らの所属する人類連合軍人間軍第三連隊連隊長、人間国第二王女、帝宮神楽(みかどみやかぐら)である! 此度は救国の為、若い力を尽くしてくれたことを嬉しく思う! まずは、貴君らの奮闘に、王族を代表して感謝させて欲しい!」


 凛とした佇まいに、誰もが見惚れ、軽く興奮しているのがよくわかった。

 実際、姫様には、それぐらいのカリスマ性を感じた。


「今日、君らは傷つき、多くの仲間を失ったと思う。それを想えば、安易に勝利を祝うことは不謹慎かもしれない」


 ネグロの手で死んだ同級生のことを思い出したのだろう。

 みんなの表情から、気持ちが沈んだのがわかる。

 俺も、いくら俺をイジメていた連中とはいえ、いい気はしない。


「だが、それでも私は貴君らの忠節に報いたい。そこで、今日を生き延びた君ら全員を、二等兵から一等兵に昇格させることにした! 貴君らはもう素人ではない! 一人前の兵士だ!」


 途端に、一部の生徒が歓声を上げて喜び、他の生徒も表情が緩んだ。

 一方で、俺はちょっと首を傾げた。


 ――全員一律昇格なら、今までと何も変わらないんじゃ……。


「さらに、特に活躍した者、三七名を、二階級特進で【兵長】に昇格させることとした」


 歓声が、ひと際大きくなる。

 姫様が名前を呼ぶたび、列の中から生徒が前に進み出て、壇上に上がっていく。


 そして、姫様から直接謝辞を受け、これからも励むように言い渡される。


 メールによる一斉送信でもいい気がするけれど、戦意高揚には効くのかもしれない。


 わかってやっているなら、姫様は人をやる気にさせるのが上手いなと思う。


「また、此度、ドラゴンタイプのレヴナントを屠った新兵がいる」


 その一言で、広場がざわついた。

 ドラゴンタイプのレヴナントは、戦車隊ですら苦戦する強敵だ。


 それを単独で討伐したなら、とんでもない天才だ。

 でも、第一大隊のほうは静かだった。まるで、全てを知っているかのように。


「そこで、異例ではあるが、その者を三階級特進で【伍長】に昇格させようと思う。第一少年兵大隊所属、龍崎辰馬(りゅうさきたつま)! 壇上へ!」


 広場が、いっそう騒がしくなった。

 俺も、その名前は知っている。


 龍崎と言えば、かつて魔王を倒した十三人の勇者の一人を輩出した名家だ。


 星歴二〇五〇年の今でも、龍崎家は名門中の名門として、軍部では大きな影響力を持っている。


 早い話が、勇者の子孫だ。

 人間には珍しい金髪の美形が壇上に上がると、男子たちは動揺して、女子たちは色めき立った。


「なぁ、確か勇者って、ハイヒューマンなんだろ?」

「ああ、単独でドラゴン退治とか、流石は龍崎家の人間だよな」

「五〇〇年ぶりに、ハイヒューマン出るか?」


 男子たちの言う【ハイヒューマン】というのは、神話の超人だ。


 人間の建国神話では、二千年前、人間は老いることもなく、神に選ばれた絶大な力を以って凶悪なモンスターたちを退け、この地に国を築いたとされている。


 けれど、平和な時代と共に人間は力を失い、今に至る。


 それでも、稀にかつての力を覚醒させ、人知を超えた魔力と身体能力を宿す人間がいる。


 歴史上の勇者、英雄と呼ばれる人々は皆、ハイヒューマンだったと言われている。


「ハイヒューマンの子供は生まれながらにハイヒューマンになる可能性があるって言うし、女子たちが龍崎を狙うのは当然だよな」

「結婚できなくても、龍崎の子供を産めば一生安泰だもんな」


 男子たちのやっかみを知ってか知らずか、龍崎は檀上で姫様から謝辞を受けると、誇らしげに俺らへ語り掛けた。


「みんな! この場を借りて約束しよう! 五大都市の一角、文禄市を実効支配しているレヴナント大幹部、三大公の一人、タルタロスはオレが倒す! そして邪悪なレヴナント共を率いる巨魁、ノーライフキングを討ち滅ぼし、人類を救ってみせる! 初代様の跡を継ぎ、ハイヒューマンの頂に昇るのは、このオレだ!」

 

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