第45話


「ここからは、俺の命を武器にしてやるよ!」


 自分でも、何を言っているのか分からない。時間は稼いでみたが、何も思い浮かばない。


 そもそも、こんなバケモノ相手にどう戦えばいいんだ。


 デカイ奴を倒す時は足を狙うのが定石だが、こいつは四脚、一本を破壊しても他の三本でカバーできるだろう。


 接近戦は萌仲でも勝てなかった。ジェネレーターを狙った皆恋の弾丸も効かなかった。そもそも、胸でも腹でもなければ、どこにジェネレーターがあるんだよ。


 無敵のバケモノを睨みつけて、俺は思う。


 こういう時、ミア姉の好きなアニメのヒーローなら、相手の強みを逆手に取るとかするんだろうが、現実にはそんな都合のいいことはできない。強みは強みであって、弱みにはなり得な――。


 一瞬思考が停止して、目を見開いた。

 あまりにも非現実的で、フィクションめいた作戦が脳髄を駆け巡ったからだ。

 映画のスタントじゃあるまいし、まして巨大ロボのBMでそれは無理だろう。


 でも、仮に失敗したとしても、目くらましにはなる。

 俺は、一度外部スピーカーを切り、萌仲に簡単な指示を出すと、声を張り上げる。


「行くぜ蜘蛛野郎、ここからは、俺と萌仲のコンビ攻撃だ!」


 俺の目の前に、萌仲のフェンサーが何も言わず、前傾姿勢で構えた。

 俺は、拳を固めたボクサースタイルだ。


『素手で何ができる。お前が脚にしがみついている間に剣士が斬りかかるつもりか?』


「いくぞ!」

『ん!』


 俺と萌仲は同時に走り出した。


『無視してんじゃ、ねぇ!』


 フェンサーが大きくジャンプ。アラクネの上半身に上段から斬りかかった。


 アラクネはそれを読んでいたように、空いている手でフェンサーの胴体をわしづかんだ。俺のスレイヤーには、剣の下段斬りを見舞ってくる。


 だが、俺には当たらない。俺はスレイヤーの重心を後ろに倒すと、巨大ロボでサッカー選手ばりのロングスライディングを敢行した。


『なっ、ああああああああああああ!?』


 皆恋が弾丸を撃ち込んだ腹から、ギシリと音が鳴って動きが鈍る。

萌仲が半分に切断した刀身の断面が、俺の頭上をかすめていく。


「ライフルを投げろ!」


 それだけで理解してくれた愛希と皆恋が、自分のライフルを投げてくれる。

 俺は、アラクネの股下に滑り込みながら空いた両手でライフルをキャッチした。


 二丁のライフルを、アラクネの股下に突き付けると、同時に引き金を引いた。


「こっちも全弾くれてやるよ‼」


 アラクネの装甲に、二丁のライフルが貫通力重視の徹甲弾を容赦なく叩き込む。鋼の絶叫と悲鳴が全てを支配し火花が飛び散る世界で、俺は自分でも聞こえない何かを叫んだ。


 さっきは、自分でも何を言っているか分からないと思ったけど、間違っていない。

自分が他の三人に見劣りしているなんて、俺が一番分かっている。なら、足りない分は、命を武器にして戦うしかない。


 ライフルが弾を撃ち尽くした。その直後、萌仲の操るフェンサーが、俺をアラクネの股下から引きずり出してくれる。すぐにアラクネは力を失い、大地に崩れ落ちて、肝が冷えた。一瞬でも遅ければ、俺はスレイヤーごと圧壊していただろう。


『ん、神明、だいじょうぶ?』

「ああ、完璧なタイミングだったよ」


 警戒するために、萌仲と一緒に距離を取って、俺は捨てた荷電粒子砲を拾い上げるとチャージを始めようとした。


 でも、どうやらアラクネは完全に機能を停止したらしい。

 装甲の隙間から白い煙を噴き上げ、スクラップ同然だった。そこへ、ミア姉の声が入る。


『弟者。こちらでもアラクネの機能停止を確認した。やったな』

「ああ、ジェネレーターが腹にないなら腰かと思ったけど、当たりだったよ。あとミア姉、前に、巨大ロボより戦車の方が強い三つの理由教えてくれたけど、俺から四つ目を提示させてもらうぜ……巨大ロボの方が、仲間との連携の幅が広い」


 俺の答えに、ミア姉が「うむ」と返事をすると、通信機から愛希の明るい声が聞こえた。


『兄さん、よかった。無事なんですね♪』

『驚かせるんじゃないわよ。でも、よくあんなこと思いついたわね』


 不思議そうに尋ねてくる皆恋に、俺は安堵の息を吐いてから答える。


「こいつの下があんまり潜りやすそうだったからな。俺らと同じ大きさの二脚なら無理だった。でも、こいつがデカブツで、常に足を広げた四脚タイプだったのが幸いしたよ」


『なるほど、まさに強みを逆手に取ったわけですね♪』

『アンタ、何気に主人公力高いわよねぇ』

「自分でも、アニメの主人公みたいだと思うよ」


 と、俺が軽口をたたいた瞬間、アラクネの首が落ちて、中から小型のジェットポッドが飛び出した。どうやら、緊急脱出装置らしい。


『あの世で仲良くなぁ!』


 そう言い残して、アラクネのパイロットを乗せたポッドは、海の向こうへと飛んでいく。


 背筋と心臓に、絶対零度の悪寒が走った。


 あいつが言い残した言葉の意味を即座に悟った。アラクネは自爆する。でなければ、あんなセリフは出てこない。


 様々な思考が駆け巡る。


 あの巨大なアラクネの爆発だ。並の威力じゃないだろう。愛希のバリアは使えない。愛希と皆恋を抱えて安全地点まで退避するのは間に合わない。地下に逃げられる縦穴は無い。


 気が付けば、俺は荷電粒子砲を構えて、その引き金に指をかけていた。

 みんなを助ける方法はこれしかないと、体が分かっていた。

 俺はESSを成功させたことはない。


 でも、昼に愛希は言っていた。


「大丈夫です兄さん。巨大ロボアニメの主人公の力は、ピンチの時にこそ覚醒するもの。私は信じています。私にピンチが迫った時、兄さんが愛の力で覚醒し、スーパーアルティメットカミアキになることを‼」


 今までずっと、妹の期待を裏切り続け、駄目な兄貴をやってきた。


 だから、ここでやらなきゃ、俺は愛希の兄貴を名乗れない‼


 全身の血液が沸騰するような闘志で、心臓の鼓動が加速する。

 世界の解像度が上がり、数瞬先の未来でアラクネが周囲を灰塵に帰す光景が見える。


 体は灼熱に燃えながら、意識は揺らぐことなく、拡張させる事象へと収束していく。


 刹那、世界が赤く染まった。


 アラクネが生み出した紅蓮の爆炎に、俺の荷電粒子砲から放たれた真紅の輝きが抗う。


 地獄の業火は一瞬で周囲を飲み込み街と空を侵食して焼き焦がす。


 そんな中で、荷電粒子砲からはなおも、フルチャージショットよりも遥かに強い、極大ボリュームの光が溢れ続け、爆炎と衝撃波を相殺していく。


 愛希は、バリア能力で俺の命を何度も守ってくれた。

 愛希だけじゃない。皆恋は、ホーネットを撃墜して、俺と愛希の命を助けてくれた。


 萌仲は、常に最前線に立って戦線を切り開き続け、何度も俺の命を救ってくれた。

だから、今度は俺が彼女たちを守る番だ。


「いっっっけぇええええええええええええええええええええええええええええ‼‼‼」


 俺の視界を、真紅の輝きだけが覆い尽くして、そのまま俺の意識は、光の中に吸い込まれていくような、非日常的な感覚を味わう。


 いつの間にか、音が消えていた。目の前には、何もなくなっている。


 更地になった周囲は生々しい破壊の痕に満たされているが、振り返ると、そこにはひび割れた道路と、その上に座り込む、三機のBMの姿があった。


『……神明、すごい』

『アンタ、今のって……』

『兄さん……まさか、ESSが?』


 三人の声を聞いた時、もう俺の中には、あの神秘的な感覚は無かった。


 代わりに、とある言葉が沸き上がり、口を突いて出た。


「愛希……兄さんカッコ良かったか?」


 コックピット内の画面に、愛機の笑顔が映った。


「はい、兄さん大好きです♪」


 満開の笑顔の愛しさに、俺の心臓は高鳴った。

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