第44話
「くっ」
すぐさま手でブレーキをかけて、上体の力で跳ね起きた。
顔を上げると、萌仲が果敢に切り込んでいく雄姿が目に飛び込んだ。
萌仲は両手にマチェットソードを握り、巨人に肉迫する。
だが、射程外から、大剣が一方的に萌仲のフェンサーを切り飛ばした。
巨人の一撃を、萌仲は二本の剣で受け止めるが、体重差で全身まるごと持っていかれる。
八メートル十トンのBMが空に踊り、フェンサーはビルの外壁に叩きつけられた。
『ッ……あの人、おっきぃ』
元々、萌仲は体格差が原因で、格闘技の試合に勝てなくなった子だ。巨大ロボに乗っても、機体に体格差がつけば、結果は同じだった。
『兄さんと萌仲さんは牽制! 皆恋さんはお腹にトンネリングを叩き込んでください!』
『いいけど、お腹?』
『はい。あれだけの巨躯を動かすには、我々と同じ水素電池では間に合わないでしょう。おそらく、ジェネレーターを積んでいるはずです。その可能性がもっとも高いのは、サイズ的に考えてもお腹でしょう』
『分かったわ』
「了解だ」
俺は両手のガトリング砲で、巨人の左腕を集中射撃した。
けれど、巨人の装甲は戦車以上なのか、まるで効いていない。
それでも、注意を逸らすくらいはできたようで、その隙に萌仲が再度突撃した。
今度は低く、地面を滑るように駆ける。
それを巨人の刃が、虫を払うようにして、また下から切り上げようとした。
萌仲の華奢なマチェットソードと、巨人の肉厚な大剣が、モロに激突する。
俺が、マチェットソードがへし折られる光景を想像した瞬間、巨人の刃が宙に舞う。
ESS、多次元斬。
四次元以上からの同時斬撃により、切断力を二倍三倍にする能力だ。
パイロットが動揺したのだろう。巨人の動きが鈍化して、腕を空ぶらせた。
その間に、萌仲のフェンサーは、巨人の顔面に跳び膝蹴りを叩き込んでいた。
『ぐ、お……』
巨人の上体が大きくのけ反り、隙が生まれた。
それを見逃さず、皆恋がスナイパーライフルの引き金を引いた。
今更、防御行動は間に合わない。
狙い通り、皆恋の大口径スナイパーライフルの弾丸は、巨人の腹部装甲に吸い込まれ、破砕音を鳴らした。だが、巨人はあっさりと体勢を立て直した。
『ハッハーッ! 相変わらず面白ぇなぁ! 俺のアラクネにここまで食い下がるとはな!』
刀身が半分になり、ロングソードからショートソードになった高周波ブレードを眺めながら、アラクネのパイロットは高笑う。
外部スピーカーで声を張り上げられて、俺は眉間にしわを寄せた。
「ミア姉、戦場で相手に話しかける奴って結構いるのか?」
『多脚戦車などの特殊兵器使用者や、パワードスーツ装着者には、時々いるな。かくいうワタシもその一人だ。なんというか、自身の戦意鼓舞になる』
そうか、と俺が納得する間も、アラクネのパイロットは舌を回した。
『でも残念だったな! このアラクネはお前らの機体を元に設計されている。四脚にすることでよりデカくて強力になりながらも、機動力は損なわねぇ! お前らチビ共の攻撃なんざ、効かねぇんだよぉ!』
『なら、私の考えた必殺技はどうですか!』
敵が喋っている間に、愛希はグレネード弾を放った。
コンマ一秒遅れて、アラクネを包むように、ドーム状のバリアが展開し、グレネード弾はその中で炸裂した。
グレネード弾の、絶望的な破壊エネルギーの全てが外に逃げず、余すことなく、アラクネに殺到する。バリアが消滅すると、太平洋の風が、黒煙を取り払った。
果たして、そこには超高熱と衝撃波を叩き込まれ、なお健在のアラクネが立っていた。
『嘘、ですよね?』
愛希が絶望感に満ちた声を漏らした。
流石に、装甲には破壊の痕が走っているものの、原型は完全に留めていた。
「くそっ!」
すかさず俺は、ミサイルとガトリング、それにライフルとハンドガンによる全兵装同時攻撃を試みた。でもそれは数秒。ミサイルは撃ち尽くし、ガトリングは空しく空回った。
「弾切れ!?」
見れば、コックピット内に表示されている機体ステータス、そのミサイルとガトリングの残弾数が、ゼロになっている。そして、ライフルとハンドガンの弾もすぐ尽きた。
俺は馬鹿か!?
こういう相手の時こそ、俺のスレイヤーの出番のはず。
なのに変に気負って、雑魚相手に弾を大盤振る舞い。結果、肝心の目標と戦う時に、弾薬を切らしてしまう。兵士にあるまじき失態だ。
じぶんの愚かさに、眩暈がした。
他にアラクネを倒し得るのは、荷電粒子砲のフルチャージショットだが、
『おいおい、弾切れかよ。たくよう、興醒めなんだよぉ!』
アラクネのガトリング砲が唸り声を上げて、ミサイルランチャーが吠え上げる。
ガトリング砲の弾幕からはなんとか逃げられたが、相手をロックして追尾するミサイルから逃げるのは至難の業だ。愛希が全体に目を光らせ、一部のミサイルをバリアで防いでくれなければ、俺らはとっくに全滅していただろう。
とてもではないが、荷電粒子砲をフルチャージしている暇はない。
『ほうれ、プレゼントだ!』
アラクネの背中に搭載された二門の荷電粒子砲が肩に倒れ込み、俺らに向かって口を開いた。咄嗟にサイドステップで避けて、俺はガラス張りのビルに肩から突っ込んだ。
次の瞬間、さっきまで俺のいた空間に、光の帯が流れていった。
破壊の光は、延長上の低層マンションを押し流すように倒し、砕き、呑み込んでいく。
すぐに全員の安否を確認する。レーダーには、三人の反応が残っている。顔を上げれば、立ち上がる姿も確認できた。
しかし間髪を入れず、アラクネがガトリング砲で弾幕を張った。
その射線上にいる愛希は、隣の皆恋を守るように、再びバリアを展開した。
だが、バリアは一瞬でほどけて、無数の弾丸が愛希のコンダクターを襲った。
「愛希‼」
ESSの使いすぎだ。もう、愛希にはバリアを維持する精神力は残っていない。
コンダクターは両足を破壊されいる。右ひざはひしゃげ、左足は装甲が吹き飛ばされて、形状記憶カーボンナノチューブ製の人工筋肉の残骸が周囲にばらまかれていた。
皆恋のアーチャーも、片足を破損しているようだ。片膝をついて、懸命に立ち上がろうとするも、金属の悲鳴が響くばかりだった。
アラクネの荷電粒子砲から、駆動音が聞こえる。
あの野郎、動けなくなった二人から始末する気か!
俺は何も考えず、二人の前に立って、アラクネと対峙した。
とにかく今は、二人が逃げる時間を稼ぎたくて、俺は外部スピーカーを入れた。
「俺が相手だ、蜘蛛野郎!」
『おぉっと、勇ましいねぇ』
人を小馬鹿にした声音で、アラクネのパイロットは笑った。
『兄さん! 逃げて下さい!』
『そうよ! アンタのスレイヤー弾切れなんでしょ!』
背後で騒ぐ二人に向かって、俺は言ってやる。
「ああそうだ。だからもうこんなもんはいらねぇ」
俺は、ライフルとハンドガン、ナイフと荷電粒子砲を捨て、さらに背中と両腕の武装をパージした。ミサイルランチャーと、ガトリング砲が落下して、道路にめり込んだ。
「ここからは、俺の命を武器にしてやるよ!」
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