第7話 白昼夢

それからしばらく後、七美の人気が落ちてしまった。後からデビューした三人組の歌手の中に七美によく似た子がいて、そちらの方に人気が出てしまったからだ。


どんどん仕事が減って、薫くんに会うにも、あちらは人気グループの一人で、バラエティーから歌までと、何でもこなすアイドルグループだ。会いたくても、会えなくなってしまった。


その頃から、体調不良を起こすようになった。そして、悪夢を見るようになった。

夢の中で、私は生きたまま火だるまになった。何度も何度も夢で繰り返された。

私自身のことなのか、別人のことを追体験しているのか?分からなくなってきていた。


私は夢の中で、愛する人に裏切られ、業火の中で苦しみにのたうち回っていた。

まるで、自分が火に焼かれているかのようにリアルな夢だ。

そして、頭の中で誰かがささやいているように感じる。


恋が成就するなんて、許せないわ!私が潰してやるわ!笑い声が頭の中に響いて来た。


この頃、昼間でも意識がもうろうとすることがある。それに、何だかおかしい。一日の記憶が、虫食いのように途切れている時がある。


久しぶりにラジオの出演の仕事があり、近くで薫くんのロケがあった。もし、私が火をつけたら、また薫くんと一緒にいられるのかしら・・・?もうろうとした意識の中で思いつめていた。そして、誰かが私をけしかけているかのように思える。


そうだ、火をつけたらまた、薫くんと一緒にいられるわ。私はもうろうとする意識の中、事務所の片隅に火を放ってしまった。頭の中で、高らかな笑い声が響いて来た。


すると、スタッフの一人に見つかり、警察に通報されてしまった。火をつけた場所が悪く、個人情報のある事務所からの出火だった。幸い人が亡くなるような事はなかったが、それでも、重い刑に処せられることになりそうだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る