第6話 恐怖
「今日、泊めてよ」と私は言った。薫くんはびっくりしたように、目を見開いていた。そのまま、私はきつく薫くんに抱きついた。「私、薫くんのことが好きなの!」
「えっ、ちょっと、困るよ。急にそんなこと言われても・・・」
私がしがみついたので、薫くんの身体の体温が上がったように感じる。私の身体に熱が伝わって来た。
「あなただって、私のことを好きだと思ってくれてるのよね?だから、電話やメールをくれたんじゃないの?」それに、「どうして、こんなに身体が冷え切ったと思うの?ここまで、雨の中必死で走ってきたんだから・・・」
その時、雷の落ちる大きな音がし、空に稲妻がよぎった。そして、室内に一瞬光が差し込んだ。薫くんの顔を見ると、恐怖で引きつったような表情をしている。「き、君の後ろに焼けただれた女性が・・・」
「えっ?私は何も見てないわよ。きっと、気のせいよ」と言って、窓の方を見た。
すると、あの白いドレスを着た焼けただれた女性の姿が見えた。「キャー!」私は叫んで、そのまま気を失ってしまった。
翌日、大雨だからと旅行を中止してとんぼ帰りした両親は、七美が自宅にいないのに驚いて、娘の居場所を探した。携帯にGPS機能がついていたので、そこから心当たりのあるところを調べてまわった。
母親は芸能事務所に電話して住所を言うと、所属しているメンバーに一人該当者がいることが分かった。緊急だからと無理に住所を教えてもらい、マンションに向かって車を走らせた。
そして、二人の仲は両親の知るところになって、その日のうちに二人は引き離されてしまった。
母親は旅行すると言って出かけたら、娘が男のマンションに泊っていたなんて・・・。まだ十六歳だというのにと、以前にも増して厳しいマネージャーになってしまった。
新学期が始まった。二人は、学校に仕事にと忙しい日々を過ごしていた。七美の二回目のコンサートが決まった。デビューしてから三曲を売り出して、少しづつ顔の売れた歌手になっていた。
拍手喝采のうちに二回目のコンサートも無事に終った。母親と楽屋でくつろいでいると、スタッフらしい人が入って来て、バタッと倒れてしまった。髪はぼさぼさで顔は汚れて、穴だらけのジーンズを履いている。
母親が近づいて声をかけると、返答はないが意識はあるらしい。身体も冷え切って、震えている。胸にかかっている名札から、スタッフに間違いなさそうだ。母親が可哀想だから、少し奥で休ませてあげなさいと言った。
私はスタッフをじっと見た。その人は自分と同じ年頃で、薫くんに似ていると思った。すると、寝ていると思ったスタッフに、ぐっと手を握られた。私はハッとしてスタッフを見ると、薫くん本人だった。
母親がそばにいるので、小声で「どうしてそんな恰好をして、倒れていたの?」と尋ねた。「近くでロケがあったからコンサートの終了を待って、駆けつけたんだ」と薫くんは答えた。
小声で、「会いたくてたまらなかったけど、チャンスを待っていたんだよ」と話してくれた。少しの間の時間だったけど、二人は心の内を語り合った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます