あり得ない性能

 ヴァーリのエクスプレスが放つビームによって、また敵のセクリスが爆発する。


「あいつ、おかしい! 本当に魔王か。――うわぁ!」


 防衛部隊はシュナイダーに対処を求める。


「頼んだぞシュナイダー。敵はあの場所だ!」


 防衛部隊のパイロットがそういった瞬間、彼の乗るセクリスも四発のビームを被弾して爆発する。

 シュナイダーはヴァーリの位置を捕捉して、両肩に装備しているコンテナ状のローンチポッドから大型ミサイルを四発同時に発射する。

 ヴァーリはすべてのミサイルをシールドバインダーのビームで迎撃した。


「ありえない。何故、あんなにビームの連射が可能なんだ! ジーンと同じ武装以上たぞ!」

「エネルギーも! 砲身だってもたないはずだ!」


 エクスプレスのビームによってまたセクリスが一機撃墜された。

 敵防衛部隊のパイロットが違和感の正体に気付いた。敵機体のビームライフルは威力も並外れたものだ。ジーンのシールドバインダーがもつビーム砲よりも、強力なのだ。


「魔王がやってきたんだ……」


 絶望してパイロットが口にした途端、搭乗していたセクリスは撃ち抜かれた。

 

「敵パイロットが理解できなくても仕方ありません。エクスプレスはクリムゾンリアクターから生み出される大量のヘリウムイオンビーム。エネルギー総量は艦砲と同じ約1ギガジュール。威力も絶大です」


 エイルには防衛部隊の困惑が手にとるようにわかる。


「エクスプレスが持つ強さの源泉は極めて高い冷却性能にあります。砲身が熱によって融解することはありません」

「敵にとっては災難でしょうね。ジーンのオリフラムが持つシールドバインダーに収納されたビームライフルよりも高性能な重火器が存在するとは思わなかったでしょう」


 ロズルも画面に映る防衛部隊を冷ややかに見下ろしている。

 EL勢力にも関わらず、政争に明け暮れて英雄を殺した卑怯者たちだ。隻翼の怒りも理解できる。


「シュナイダーと戦闘に入りましたね。何分もつやら」


 シュナイダーとヴァーリがお互いの間合いに入る。

 シュナイダーは空こそ飛べないが、意外なほど運動性はよい。的確にヴァーリを捉えてビーム砲の餌食にしようとしている。

 ヴァーリもまた連打されるビームをシールドバインダーでことごとく防いでいた。


「くそ。なんて奴だ。重イオンビームをすべて防ぐなんて」


 シュナイダーのパイロットが奥歯を噛みしめている。通常のNM装甲でも耐えられるものではない。

 ジーンと同等のシールドバインダーなら、数秒なら大型艦砲ビームにも耐えうることができると考えると、パイロットは暗澹たる気持ちだった。

 機体の被弾も相当なものだ。戦車であるシュナイダーでなければとっくに撃破されていたに違いない。


「ジーンの亡霊ならぬ、本物の魔王か」


 敵が放つビームは装甲が薄い部分を貫通している。NM装甲を貫通するビームなど、想定できない威力だ。

 ジーンを殺害したと名乗っていた魔王だ。おそらく冷酷無比であり、死神のような存在なのだろう。

 眼前の機体にはそれほどの不気味さがある。


 ヴァーリは盾を構えてビルの合間を縫うように移動してシュナイダーに接近している。

 

「来るな! 来るな!」


 パニックになったパイロットは脚部装甲を展開して機関砲弾とビームを斉射するが、ヴァーリは盾を構えながら体の左側面を突き出す、脇構えに似た姿勢ですべて防いだ。

 シュナイダーは大型機がゆえに運動性は劣るとはいえ、装甲も火力も圧倒している――はずだった。

 魔王は火力も装甲もシュナイダーに匹敵、もしくは陵駕しているかもしれない。


「いくぞ」


 ヴァーリはシュナイダーの懐に飛び込み、ひときわ腰を落としてシールドバインダーからティルフィングを抜いた。

 

「そうはいくか!」


 シュナイダーは護身兵装として砲塔に接近戦用の斧に似た刃を備えている。

 懐に入り込んだヴァーリを切断するべく砲塔を横薙ぎに振るう。

 ヴァーリはシールドバインダーで受け流して砲塔ごと刃を弾いた。


「待っ」


 ヴァーリがティルフィングを両手に構え、一気に振り下ろす。

 シュナイダーは真っ二つに切り裂かれ、前屈みになり地面に崩れ落ちた。

 地響きとともに崩れ落ちた機体は、リアクターが小爆発を起こしたあと、格納された機関砲弾や背後のミサイルに引火し轟音とともに爆発する。


「あり得ない性能だぞ。ホークの域を超えている!」


 遠巻きにみていた防衛部隊のパイロットたちが見た光景。

 それは爆炎を背に進むヴァーリの姿。まさに魔王というべきものを連想させた。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 ラピエール部隊は戦場となった市街地に到着した。

 最終防衛戦であり、この先には着陸している宇宙艦ルーアンが鎮座している。


「防衛隊長が上手く情報を聞き出したな。我が軍も安心しただろう。敵が亡霊や本物の魔王ではなく、生きているパイロットだということが判明したわけだ」


 ライオネルが不敵に微笑む。


「ノワール全勢力の殲滅か。大きくでたものだな。確かにジーンとは志も違うようだ。品がない」


 ライオネルは敵勢力の殲滅など下の下だと断じる。

 人間は交渉も会話も可能だ。武力衝突は優劣の決定に過ぎないのだ。

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