TVG-01ティルフィング
「では最初の目標は宇宙艦ルーアンですね。ロズル、お願いします」
「はい。いきましょう」
星間巡航戦車アルフロズルは海中を進み、作戦領域に近付く。
「ウリエルスフィア領域ヴァレンティア軍の最大拠点カムロドゥノンがあります。カムロドゥノンは避けてノワール海峡を挟んだ対岸にある拠点ネウストリアに帰港している宇宙戦闘艦ルーアンを目標地点に設定。艦とライオネル部隊の殲滅が戦術目標となります」
エイルがオペレーター室から隻翼に告げる。
「作戦時間は十五分。アルフロズルが浮上するだけで陽動になるでしょう。迎撃してくるライオネル部隊を叩いて下さい」
「了解した」
「作戦終了後、南下して進み、その先にいる宇宙艦ルテース軍を狙います」
エイルの言葉がしばらく途絶える。
「これより作戦名【operation
「なんという作戦名だ! ジーンが魔王に魂を売ったというEL勢力内にある伝聞への意趣返しか」
「よくわかりましたね。彼らEL勢力にとって私達は異端で悪魔扱い。ならば隻翼にまことの魔王になってもらおうかなと」
ロズルも眉をひそめる。
魔王の帰還とはいったもので、ジーンが北の魔王から力を借りたと見做されていることに紐付けているのだ。
テュールもエイルからこの作戦名を聞いた時、微妙な間があったが許可したのでそのまま採用されている。
「オペレーションエリアに入りました。アルフロズル、浮上します」
ティルフィングがカタパルトデッキのカタパルトに移動する。
「第一目標ライオネル部隊殲滅と宇宙艦ルーアンの無力化です。オペレーションシステム実行。アルフロズルからの発進許可を」
「許可」
情報処理パネルの背後にアルフロズルはいた。エイルの声に合わせて許可を出し、ティルフィングの発進シークエンスに入る。
「ティルフィング、コンディションオールグリーン。――クリア。ミッションを開始します」
エイルは淡々と作戦遂行に向けて、艦内を制御する。
カタパルトに走るライトが、黄色から青に変わる。
「ミッションスタート」
カタパルトが大きく動き出し、ティルフィングが射出される。
スラスターを噴かしながら、宇宙艦ルーアンを目指す。
リアルタイムでエイルがレーダーサポートをしてくれていた。
(ティルフィングでの初陣か。祈る言葉もないが、全力を尽くすまで)
そう思った時、ふと思い出す。
「いや。一つだけやることがあったな」
夢であったもう一人の自分。そして作り出したゲニウスの名を。
独自で奇妙な改変されたという祈りの言葉は、すぐに思い出すことができた。
何かが起きるとも思えないが、その言葉を口にする。
「もしもお前が玲司で、玲司がゲニウスだったら、玲司がお前にしてほしいと思うだろうことを玲司のためにしてやってくれ」
隻翼はその名を呼ぶ――
「ヴァーリ!」
隻翼のコックピットが反応を示す。
コックピット内のコンピューターが負荷の高い演算を開始していることがモニタからも見て取れた。
『戦闘システム強制介入確認。アップデート実行――完了』
OSのアップデートが行われたかと思うと、一瞬で終わった。
『これより当機TAW-01ティルフィングは――機体名ヴァーリとなります』
隻翼は機体との一体感が増したように感じる。
「待って? ヴァーリ! なんであなたがいるの?」
隻翼がしらないところで、アルフロズル車内は混乱に陥っていた。エイルまでが動揺している。
オペレーションサポート画面のティルフィングの名称がValiに書き換わったからだ。
「隻翼と連動するようなゲニウス候補はいましたが、ヴァーリとは思いませんでした」
ロズルにとっても予想外なゲニウスが出現している。
「ドヴァリン! ドゥリン! どういうことですか? ヴァーリがいるなんて私は聞いていない!」
エイルがドヴァリンとドゥリンを呼び出す。
彼女からしても素性が良いゲニウスとはいえない。
「何も知らん! ヴァーリが目覚めたなど聞いておらんぞ!」
「俺もだ! あいつは破損して地下墳墓で眠っていたはずだ」
ロズルは哀しげに目を伏せた。
これはある事実を指していたからだ。
「隻翼の本質がヴァーリに近かったということでしょうか。ヴァーリが人知れず干渉して彼の
「いるなら先に合流して欲しかったかな! 計算も狂いますね。良い方に!」
ヴァーリの出現は作戦遂行率に大きく寄与する。
極めて厄介なゲニウスだが、戦乙女たるエイルにとっても望ましいものではある。
「隻翼のDNAに干渉していますね。ヴァーリのデータ混入を確認。このDNA情報はホークのコックピットがパイロット情報とともに自動的に読み取り、奴が乗る機体は今後すべてヴァーリがサポートすることになる」
「処理能力は機体性能に左右される。ティルフィングならおあつらえ向きだろうよ!」
ドヴァリンとドゥリンが今やヴァーリとなったティルフィングの機体データを読み取り分析を開始している。
OSアップデートによって反応速度や処理能力が向上している。
ヴァーリとなった機体は機を窺う鷹のように、目標に向かって滑空していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます