星間巡航戦車アルフロズル
「魔剣というだけはある」
無理矢理神話の魔剣を再現したかのような近接兵装に、隻翼は思わず感嘆の声を漏らす。
「ティルフィングの加速を用いれば宇宙艦の装甲だって穿ち抜ける。ホーク程度なら膂力で押し切ってやればいい」
「鋭利な刃物ではあるが突くほど万能じゃない。宇宙艦の外壁なら穿ち抜いた後、引き斬るように使えば斬れるだろう」
「こいつのせいでEL勢力にかなり目を付けられたもんだ。はっはっは」
ドヴァリンとドゥリンは過去を思い出しながら笑う。
「このサーベルを持った機体はさぞや警戒されただろうな」
スバタがサーベルを抜けない理由も理解した。パワーがある機体だが、このサーベルを振り回すほどのものではない。
「シールドバインダーもガルド材を用いている。もっとも斬れ味ではなく防御性重視だな! 無効化と合わさって防御力は相当なものだ」
「だから僅かながらとはいえ二隻の宇宙艦の砲撃も耐えられたのか。連中が欲しがるはずだ」
隻翼はあの砲撃に耐えたオリフラムに、ようやく納得がいった。
「普通のホークなら即機体が溶けちまうだろうな」
ドヴァリンも認める。
「ブレードとしてのガルドはすぐに対策されちまったがね。盾と矛の競争さ」
「どういう対策をされたんだ?」
「EL勢力に奪われたと言っただろう? ガルドの武器は同じくガルドの武器を弾く。なんでも斬れる分、同種の武装は弾いてしまう。負の重力作用のせいだな」
「そうはいってもEL勢力でガルド製や似た物質の武装が普及した話は聞かない。製法まで模倣できなかったのだろうよ」
「テュールスフィアの技術が込められているんだな」
ティルフイングはサーベルをシールドバインダーに納め、今度はシールドバインダー内蔵ビームと主武装のエクスプレスを構える。
エクスプレスは長砲身のいかついビームライフルだ。
的に向かって左肩のシールドバインダーを左腕部に装備して内蔵ビームを三発放つ。
「シールドバインダー内蔵ビーム砲は廃熱能力も高く、連射も可能。ジーンのものより威力は低いが十分すぎる」
隻翼はそういってティルフィングのシールドバインダーを左肩に装備し直し、武装を切り替え、エクスプレスに持ち替える。
一発試射して息を飲む。既存のビーム砲とは一線を画す別物だ。
連射能力こそシールドバインダー内蔵ビーム砲に及ばないが一発の威力が桁違いだ。ビームの弾速も速く、そして砲身はすぐに冷却されている。
「いい武装だろ? 使いこなせよ!」
ドヴァリンとしても隻翼がどうティルフィングを使いこなすか、楽しみで仕方がないようだ。
「努力する」
とんでもないホークを任されたという実感が沸いてきたのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
北極冠に異変が生じた。
分厚い氷の下で、何かが蠢いている。
「
「戦車……?」
オペレーター室で、戦闘服に着替えたエイルが号令を発する。隻翼は思わず戦車の定義について考え込んだ。
履帯と砲、装甲が厚ければ戦車だろう。車輪でもいい。
「アルフロズルは戦車ですよ! 全長も約500メートルしかありまんし」
「小型宇宙艦並みだろう!」
エイルが隻翼の疑問に答える。宇宙居住艦は数キロメートルもの大きさが、戦闘用宇宙艦はだいたい300キロメートルから約2キロメートルだ。
戦車クルーは五名。隻翼、エイル、ロズル、ドヴァリン、ドゥリンだ。
「太陽炉リアクター異常なし!」
ドヴァリンとドゥリンが最大動力である疑似太陽炉リアクターに張り付いている。
「アルフロズルは太陽を運ぶ戦車です。動力も装甲もEL勢力の宇宙戦闘艦にもひけは取りません」
同じく戦闘服姿のロズルが胸を張る。
氷床が割れて全長五百メートルを超える巨大な構造物が浮上する。桁外れな大きさの三胴船にも似た戦車が浮かび上がった。
「星間巡航とは……」
「文字通りの意味です。負の質量によるワープによって水星から天王星まで戦場を選びません。星の海を渡る巡航戦車なのです」
隻翼はコックピット内で呆然とする。
格納庫に移動した時からサイズ感に違和感はあったが、氷のなかだったため全容を知る機会がなかった。
「アルフロズルは三胴構成で中央、右車体、左車体は独立可能です。右舷がアルヴァクル。左舷がアルスヴィズルという名称なので覚えてあげてください。胴中央が戦車本体で主動力の疑似太陽炉を搭載しているソル、つまり私の本体になります」
太陽の馬車を牽く馬の名が由来というアルヴァクルとアルスヴィズルには、二本ずつ履帯が備えてある。つまりアルフロズルは計四本もの巨大な履帯を装備している。
ソルも単独行動可能なのだろう。
「兵装が封印されていると聞いた。頼むから危険なことはしないでくれよ」
ロズルの本体と聞いて隻翼は不安になる。
「装甲と逃げ足には自信があるといいましたよ? 私はあなたを作戦領域にまで運搬するのみです」
「十分だ」
「ノワール海に突入して海中を航行。敵潜水艦に発見した場合は一気に浮上して宇宙艦に。隻翼。どちらを確実に殺したいですか? ライオネルとピーターです」
「ライオネル」
隻翼は即答する。
エイルは無言で頷き、進路を決定する。
ピーターは配下であるジーンを裏切った罪の重さでは敵対する敵組織よりも悪質だ。
それでもピーターはジーン処刑の際、逡巡した。よほど人間らしいと思う。隻翼にとっての優先順位はライオネルのほうが上だった。
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