galdrーガルド

 隻翼たちは北極冠最下層の工廠に移動した。兵装も決まり、機体製造に移るのだ。


「ここが工廠か」

「ほぼオートメーション化しているがね」

「原料の搬入もない。組立や兵装変更するための整備用ハンガーが稼働しているぐらいだ」


 ドヴァリンとドゥリンが説明してくれる。

 ホーク用のハンガーには紫黒色ダークパープルの腰までの胴体と頭部だけのティルフィングが吊られている。

 やや顎を下げている頭部はカメラはスリッドタイプでバイザーに奥深くにカメラがある。見上げても双眸がない虚ろな頭部だけが佇んでいる。


 無塗装部分は、鋼色の機体だった。本来の黒紫をベースに深紅のラインを入れた機体にカラーリングが施されていく。

 背面中央に大型スラスター。左背面部には巨大なカイトシールド状のシールドバインダーを備えている。


「胴体も一部破損していたが、残っている部品を使って修理しておいた。ダーインスレイフとリジルはテュールスフィアにおける同系統機だ。スフィアは兵器製造会社を兼ねているだろ?」

「残り二機は、こいつをばらさないと修理も出来なくなったということだがね」


 スバタやオリフラムなど、現在入手可能なホークは多くがEL勢力のものだ。機種の命名規則は歴史上の武器から選定されたものとなる。

 テュールスフィアにおいても神話の武装にちなんだ機種名となっていた。


「腕部、脚部はレプリカA品で代用する。これは消耗品だから仕方ない」

「十分だ」

「あとは組み替えるだけだな」


 ロボットアームがまず両脚を腰部に接続する。


「腕部は左右違いでもなんとかなるが、脚部だけは左右揃えないとな」

「当然だろうな」


 両腕部が接続して、機体が完成した。


「こいつがTAW-01ティルフィング。かつてテュールスフィアにいたエースパイロット用の機体。その一つだ」

「癖が強くてな。人気はダーインスレイフとリジルにあった。機動力が桁違いすぎてな。他の機体が追いつけないという意味で癖が強かったんだよ」

「味方の追随までも許さない機体、か」


 隻翼もシミュレーションで確認したので理解できる。

 加速から生じる機動力は圧倒的だったからこそ、この機体を選んだのだ。


「次は武装だな」

 

 胴体を固定していたハンガーが離れる。両脚部が備えられたティルフィングは自ずと地面に立つ。

 ロボットアームが兵装を運搬して機体に装備させている。

 まず左背面にシールドバインダーが備えられた。


「スバタではシールドバインダーの武装が使えなかったからな」

「連射式のイオンビームランチャーと、ティルフィングだな。どちらもリアクター出力に依存する。OSも危険だと判断したのだろう」

「ビーム兵装が理解できるんだが、近距離武装のティルフィングまでもか」

「そのうち理解できるさ。ではティルフィングから試してみるか。――乗れ」

「もういいのか」


 隻翼はそういつつもティルフィングに搭乗する。


「この地点に移動してくれ。試験場の洞窟だ」


 ティルフィングは指示された地点に移動する。

 移動した先の空間は地面が剥き出しになっている巨大な空間だった。目標の的もあるようだ。


「実際にティルフィングを抜いてみてくれ」


 隻翼はサーベルを抜く。


「サーベルを逆手にもって垂直に地面に落としてみろ」


 ドヴァリンが妙な指示を出す。


「ん?」


 いわれた通り、機体を操作してサーベルを逆手にもつ。そのままマニピュレーターからサーベルを離した。

 サーベルは地面に吸い込まれるように柄まで吸い込まれる。


「なっ!」

「地面が鋼鉄でも結果は変わらん。ティルフィングはあらゆるものを切断する鋭さを持つ。そのために鞘の内部では常に磁場で固定しないと物騒だがな!」

「このサーベルも負の質量が使われているのか?」

「負の質量理論の応用といったところだ。こいつはゲニウス製のガルド素材だな。合金の単結晶を組成させて特殊なコーティングをしたものなんだ」


 ティルフィングのコックピット内にあるモニタに「galdr」と表示されていた。


「これがガルド製とうことか」

「あらゆるものを切断する魔剣の名、伊達では無いぞ。こいつばプラズマビームも斬るしレーザービームも弾く。刀身に光線を当てることができたらだがな」

「無理だろ。しかし弾けるというとは。とんでもない魔剣だな」


 プラズマプラズマを斬るとは隻翼も恐れ入った。

 レーザービームは先置きでもしない限り、よほどタイミングを合わせなければ不可能だろう。この刀身は斬れ味だけではなく、光や熱への反射も高めているのだろう。


「ガルドの意味は【呪文】や【魔法の言葉】。魔法みたいな素材やコーティング諸々含めた素材だ。引っ張り破壊強度と摩擦力の最小化を極め、熱を遮断、冷却する。エクスプレスの砲身内部にも使われている」

「ティルフィングの素材はレニウム基合金の単結晶金属だ。タンタルやニオブ、ナノマテリアルを混ぜて靱性ももたせてある、正真正銘の実体剣だ。ナノマテリアルを使ったコーティングや理論値近くまで研いだ剣先を持つ」

「こいつは生産不可能だな。EL勢力にガルド材も奪われてしまった」


 二人のドワーフにとっても自慢の品なのだろう。そしてそれだけの代物なのだ。

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