両手用サーベル【シュネプフ】
「隻翼が作る朝ご飯が食べたいです!」
「私も。それにやることもあります。忙しくなりそうですよ」
「そうか。すまんな隻翼。大人数で」
「任せろ。朝食はどんなものがいい? ラーメンは夕食な?」
エイルがラーメンと言い出しそうだったので隻翼は機先を制して阻止する。
「ラーメンは朝向きじゃないのね。なら軽めで食べやすいものを!」
「そうですね。私もお願いします」
要求通り焼きたてのパンに、様々な具材を盛り込んだオムレツ。フルーツジュースをみんなに提供する。
「エイル。冷蔵庫にアイスとフルーツのクレープがある。食べたい時に食べるといい」
「やった!」
じーとみているロズルに気が付き、慌てて付け加える。
「ロズルも。冷蔵庫にたくさんある。遠慮なく」
「優しいですね」
隻翼に微笑みかけるロズルに、隻翼は頷く。照れているだけだ。
「隻翼。私のときとロズルのときと反応が違うー!」
「そんなことはない、はずだ……」
「違っても構いませんよ?」
隻翼は視線でドヴァリンに助けを求めた。
「機体の話をしたいんだが」
エイルとロズルに睨まれるドヴァリンに、隻翼は心から申し訳なく思った。
「今日から機体調整いけるか?」
「いけるぞ。シミュレーターを使ってどれがなじむか試すといい。お前さんの意見を聞いて機体を調整する」
「頼む」
「後日、機体調整が終わったら私たちからもお話があります。聞いて下さいね」
「わかった」
食べたい料理の希望だろうか。隻翼にとっては二人からの話で思いつくことはそれぐらいしか思いつかなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
シミュレーターに座り、三種類の機体を用いた戦闘シミュレーションを行った。
「まずはダーインスレイフだな。どうだ感想は」
一通りシミュレーションが終わった隻翼にドヴァリンが感想を尋ねる。
「スパタに近い操作感だ。スラスター出力が高く、装甲も一回り厚い。小回りは効かないが、十分にお釣りがくる。同系統の上位機みたいな印象だ」
「リジルは射撃機だが、どうだ?」
「専門兵装のライトイオンビームライフルがかなり強いな。ジーンのシールドバインダーに内蔵されていたものより高性能じゃないか? ただ一度リアクターのエネルギー残量が尽きるとリカバーが大変だ。攻撃と攻撃の合間や集団戦でどう対応するかだな」
「狙撃機みたいな運用が本来だろうな。宇宙戦では強いんだが」
「弾薬不要で高威力。弾速も光速に近い。さすがは専用兵装といったところか」
「エネルギーのリソース管理しながら戦う必要もあるな」
核融合炉リアクターから生成されるヘリウムをイオン化させ亜光速で発射する原理なので、リアクターが生きている限り弾数が尽きることはない。
ジーンのオリフラムも無限発射のライトイオンビームライフルで戦場を制圧していた。その武装よりももう一回り高性能なのだが、エネルギー消耗も激しいことが難点だ。
「ティルフィングはおそらくお前さんの本命だろうが、面白いだろ?」
ドヴァリンが意味ありげに笑う。隻翼は苦笑する。
「性能は申し分ない。癖が強すぎる理由もわかった。シールドバインダーに内蔵されたライトイオンビームライフルの代替品も良好な性能だ。しかしこいつは……じゃじゃ馬だな」
「狂ったコンセプトだからな。近接戦を射撃のようにこなす。どっちつかずにならないようにする。だから昨日も話したが機体性能そのものは高くない。運動性も装甲も多少良い程度。リアクターから生み出される加速力によって機動性が突出している」
「射撃も格闘も同じシステムの上に乗せたようなもんだな。いいとこ取りを目指したのさ。その分、操作性に難がある」
ドヴァリンが格闘機として設計してドゥリンが射撃機に仕立てた由来らしい。
「武器のティルフィングは刀ではないからな。護拳が付いている」
スパタでは抜けなかった兵装も判明した。
一件変哲もない片刃のサーベルだ。しかし、刀身が異様に長く、湾曲もわずか。刀ではないようだ。刀でいう鍔のあたりに拳を護る防具がついている。
「武装としてのティルフイングのモチーフは、スイスに伝わる両手用サーベルのシュネプフだ。片手でも使えるから安心してくれ。意味は鳥のタシギ、そして狙撃のスナイプの語源でもある」
「スナイパー?」
「タシギは嘴が長く臆病な鳥でな。カモフラージュするのが得意で、飛行するときはジグザグに飛ぶ。この鳥を撃ち落とすにはそれなりの腕が必要だったという。タシギ猟の射手がスナイプ、スナイパーになった」
ドヴァリンが鳥のタシギを表示させる。茶色で嘴が非常に長いトリガ表示された。
「モチーフは鳥のほうか。鋭い嘴を剣に見立てたんだな」
「タシギの狩りのようにどんなに変則的な機動や距離にいても狙い澄まして斬る。兄貴のコンセプトはこれだ。俺はそれに射撃兵装の仕様を運動性に影響しない程度に盛り込んだ。リアクターが高性能だからな」
「だからあんなピーキーな反応なのか」
機体がかっとぶように移動する。壁にぶつかりそうなこともあった。閉所で使うためにはよほど慎重な操縦が求められるだろう。
「間合いの取り方が独自になるんだな」
「中距離が実質近距離。遠距離戦は得意だが有利レンジではないし逃げられやすい。張り付くにはそれなりの技量がいる」
「使いこなせば相手の背後を取ることも可能だな」
ドヴァリンはデータをみながら感心している。
隻翼のデータは癖の強い機体であるティルフィングが一番良好な結果になっていた。
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