ドワーフの呪い

「この機体の由来は?」


ティルフィングを食い入るように見つめる。

 何か、心に響くものがある隻翼だった。


「この機体が気になるか。オーディンさえも恐れた神殺しの魔剣が由来だな。あらゆる物質を切り裂き、刃こぼれもせず、狙った敵を外さない剣だ。敵対するフン族を鏖殺し、屍山血河を築いたといわれている。機体としてのティルフィングは癖が強すぎて基本性能自体は高くない」

「しかしドヴァリン。念のため隻翼に真実を告げたほうがいいぞ」

「そうだな」


 意味ありげな二人に、隻翼は言葉を持つことにした。ドヴァリンが切り出す。


「隻翼。勘で気付いたか? ジーンのオリフラムに搭載されていた遺宝のシールドバインダーとクリムゾンリアクターは、この機体のものだ。お前が持ち帰ったシールドバインダーの中に収納された武器の名もティルフィングという」

「なんだと?」

「リアクターとシールドバインダーはオリジナルの遺宝。この機体のものさ」


 ドヴァリンが画面を操作するとティルフィングの両肩に見覚えがあるシールドバインダーが装備された。

 そのなかに格納されている武器はスパタの出力では引き出せないものだった。


「我が主ティールは機体ごと貸し与えるつもりだったが、ティルフィングではエル勢力内だと目立ちすぎる。そこで俺達がティルフィングからシールドバインダー二基とリアクターをオルフラムに組み込んで渡したのさ」

「その判断は正しい。エルは遺宝に対して血相を変えて排除を試みた。理由はわからんが」

「EL達は多くの技術を喪失している。破壊するか回収するしかない」

 

 ドヴァリンが嘆息して、ドゥリンが続ける。


「EL勢力に属する超越知能は人間が持つ技術を平準化させる必要があると信じている。偏った知識や天才は、世界を乱すと。俺達は違う。世界を変えるのはやはり才をもった人間とそれを支える環境であり、極端な平準化は悪平等をもたらすと考えておる」

天才ジーニアスとはいったものだ。平準が好ましいELとなら突出した才能は相性が悪いな」

「第三世代超越知能のEL勢力が持つ技術水準も第二世代ゲニウスより劣っていったが、強奪して再構成している。これが三十一世紀におけるEL勢力の技術復興ルネサンスだ。もっとも遺宝が原因となり、ジーンのような悲劇を生んでしまったことに心は痛む。彼女は人々のために戦ったのだから」

「あんたたちは悪くない」

「そういってくれるか隻翼。これも神話に倣った呪いだったかもしれない。ジーンの配下も亡くなり、彼女自身も死んだ。そして持ち帰った。これにより呪いは解かれたというべきなんだろうが……」

「どういう意味だ?」

「ティルフィングはな。持ち主に勝利をもたらすが、三回の悪行を為すという。持ち主を殺し、親族を殺す呪いだが、呪いを果たしたあと、持ち帰った者がいた場合呪いは解かれる」

「ジーンのオリフラムがティルフィングを抜いた姿は見たことがない。逸話を気にしてか」

「そうだろうな」


 隻翼が合流する以前から部下の死を気にするジーンが、そのような呪われた魔剣を抜くはずもない。


「お前さんがジーンを、そのなんだ。ジーンをしいすることによって機体の心臓部であるリアクターを持ち帰った。伝承でいえば呪いは解かれたわけだ」

「気を遣わないでくれ」


 隻翼が苦笑する。

 どんな表現だろうが彼自身がジーンに止めを刺した事実には変わりが無いからだ。


「伝承においてティルフィングを製作したといわれるドワーフがドヴァリンとドゥリンだな。このホークも設計者は俺達だ。機体の特徴としてはリアクター出力を限界にまで引き出して機体性能と兵装に合わせている」

「明日以降でいい。どの機体がいいかよく考えろ。この施設は再現可能だが資源が限られる」

「どの機体にもリアクターとシールドバインダーは装備可能だ。シールドバインダーが片翼になったところで機動力や運動性に支障はほぼないが、同じ兵装は再現が難しいな」

「お前さんの本命としては因縁があるティルフィングと予想しているが、それを踏まえた上での三機種だ。乗ればわかるがティルフィングは人を選ぶ」


 ドワーフ二人が隻翼の知りたい情報をまとめてくれる。確かにもっとも気になった機体はティルフィングだった。

 説明し終えたところで、ドヴァリンが神妙な顔付きで隻翼に伝える。


「お前さんはテュールの蜂蜜酒を飲み干した。それによって眠っているゲニウスがコンタクトを取るかもしれん」

「どういうことだ?」

「お前さんを分析して新たな人格を作り出す奴がでてくるかもしれない。隻翼自体の性格が変わるわけではない。あくまでお前さんの、いわば魂の影。別側面が擬人化する。ゲニウスではなく才能ジーニアスが開花するのだ」

「魂とはいったが、DNAレベルに刻まれた分散型AIだな。ホークと連動する才能だ。ホーカーなら聞いたことがあるだろう? ホークのサポートAIが固有の人格を持つことがあると」

「あるな。その現象が発生するかもしれないのか」

「いるかもしれんし、いないかもしれない。ひょっとしたらテュールかもしれないぞ。精神性に同調するゲニウスがいたら、お前さんの性格をもとにサポートするAIを生み出して機体性能を引き出してくれる。ただ、あくまで隻翼自身。才能など己のなかにあるものしかないのだ。与えられるものではない。そもそもないかもしれない。ま、与太話だと思ってくれたらいい」

「わかった。期待せずに待っていよう」


 隻翼は深く悩まない。ゲニウスや才能などなくてもやるべきことをやるまでなのだ。

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