機体候補
「この場所はレガリアやアーティファクトの開発拠点だった。今はホークのレプリカAがせいぜいだ。技術や原料はあらかたEL勢力に奪われたからな」
ドヴァリンとドゥリンが口にした内容は隻翼にとっては衝撃的な内容だった。
「今でもレプリカAが生産可能だとは……」
隻翼が思わずたじろぐ製造技術の高さだった。
「機体ランク付けのおさらいだ。発掘兵器は技術水準に応じてレガリア、アーティファクト。そしてそれらをコピーしたものが現代兵器だ。レプリカのAからDランク。太陽系にあるホークの多くは量産製を重視したためレプリカDレベル。レプリカというよりはイミテーションだな」
「だからこそスフィアは高性能ホークを開発するためレガリアを入手して解析する必要があり血眼になっている。ジーンのシールドバインダーも性能が別格だった」
「そんなものがないと戦況をひっくり返すことが出来ないほどの膠着状態に陥っていたことが、ノワール戦役の不幸だったな」
隻翼が首を縦に振って二人の意見を肯定する。
「レプリカAだけでも驚きだ」
「部材は万全とはいえないがね。材料されあればレプリカAレベルのホークを作ってやれるが、あとレガリアもいくつかはすでに再現不可能だ」
「俺達は伝説の武具を作ったドワーフの名を冠しているからな。兵器製造や修復に特化した超越知能だと思ってくれていいぞ。そのかわり戦いはからっきしだ。呪いを掛けるわ、洞窟にすぐ逃げ込むようなドワーフだからな」
「これは頼もしいな」
心強い味方ができた。
「戦闘記録を見せてもらった。スパタはもう五十年近く前に設計されたランクD。戦闘機機能も完全にオミットされた量産製のみを追求した機体だ。よくもまあこんな機体でレプリカのラピエールやゴードとやりあったものだ」
遺宝を解析して再現したレプリカは高性能機を意味する。これらがレプリカBからCに相当する。ラピエールやオルフラムはレプリカBに相応するものだ。
「どんな機体でも兵装の威力は変わらない。やりようはあるさ」
「とはいっても当面の標的はヴァレンティア軍に寝返ったバーガンディ軍。ジーンを追放したルテース軍となる。それなりの機体が必要だ。単機でやるような相手ではないぞ」
「わかっている。目下はジーンをおびきだしたライオネルと直接手を下した宇宙艦マルニーのピーターが標的だ。全軍相手にするわけではないが、それでもかなりの戦力となる」
「そこでスパタに変わる新しいホークを用意する。アーティファクトやレガリアのデータから作るレプリカAだ。部材がない場合はB以下になるがね」
「スフィアの軍事産業だな……」
「何をいっている。お主はテュールスフィアの代表みたいなもんだぞ。行商人でもあるんだろう? そのうち商売だって可能になる」
「夢のある話だ」
隻翼が苦笑する。ホークの部品を量産して販売することなど考えたこともなかった。
「その夢のある話を進めるためにも、まずお前さんの機体候補をいくつか用意した。オリジナルデータから作るレプリカだが、現行機にもヒケは取らんぞ」
「詳しく聞こう」
ドヴァリンがテーブルのモニターからデータを呼び出す。
いくつかの機体が映し出されていた。
「候補はこの廃墟に残っている北欧神話の剣に関した機体に限られるがな。識別するための機体名にすぎんから由来はあまり気にするな」
「おそらく影響は少ないはずだ」
「影響がある場合もあるのか」
「ないとはいえない。ゲニウスの性格が逸話に影響を受けるように、その性質を帯びる可能性は高い」
ドゥリンが口ごもった。影響がある逸話もあるのだろう。
言霊か、と内心隻翼は思ったが口にはださない。
「どの機体も胸部が突き出た、戦闘機のような形状をしているだろう。装姿戦闘機と呼ばれた時代の名残だな。それだけ基本設計は古い」
「古いということは最新技術だな」
隻翼が嬉しそうに笑う。三十一世紀のホークは、レプリカであり最新設計は既存技術の応用に過ぎない。三十一世紀にもなるが、歴史でいえば二十五世紀以降の文明衰退期は長かった。
三十一世紀にも新たな技術も多いが、性能には寄与しておらず、量産効果を高める工夫が多い。
「そうだ。手脚を外したら戦闘機に換装できる初期世代の機体だな。イオンビームライフルや高出力レーザー。誘導ミサイルの前にはあまり意味はないがね」
「だからこそホークは地面を走る戦闘機になったわけだ。今は効率化して、胸部を真っ平らにして装甲を厚くしている」
隻翼が頷いた。乗機であるスパタも装甲は厚く、生存能力は高い。
「一機目はダーインスレイフ。由来はドワーフが作った、一度抜くと必ず人を殺す剣だ。切った傷も塞がらない」
機体の外観と性能が表示される。
通常のホークよりも一回り大きいような錯覚を受ける、青と黒の外観で、装甲と内蔵されている火砲が見て取れる。頭部はツインアイで、厳めしいイメージだ。
「性能は重装甲重武装型だな。機動力にやや欠ける」
「次にリジル。ドワーフから邪龍になったファフニールを倒したあと、心臓を取り出したといわれる。持ち主はファフニールの兄レギンだ。いわば兄弟殺しに近い逸話を持つ」
橙色の機体が表示される。細身の機体に、バイザー型カメラが特徴の頭部。
背面の大型スラスターと肩に担いで構えるタイプの大型イオンビームライフルが特徴的だった。
「高機動砲撃機だな。どの距離でも戦えるが、消耗が激しい」
「物騒な由来の剣ばかりだな」
聞いている隻翼が呆れるほどの由来だ。日本にもあったという妖刀の類いだろうか。
「最後にティルフィング。抜いた者自身や一族に破滅をもたらすドワーフの呪いがかかっている」
表示された機体は紫黒色に深紅のラインの入った機体だ。深紅のラインには見覚えがある。彼が持ち帰ったシールドバインダーと同色だ。
中世の騎士を思わせる外観ながら、若干俯き加減の頭部。目にあたるメインカメラ部分は前方に突き出たバイザーに隠れて見えない。スリッドアイタイプだ。
「武装は?」
「イメージになるが、専用武装がある」
イメージ画像によるとティルフイングに装備されているのは両手用のサーベルだった。
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