北極冠の魔王
北極冠の豪雪地域ではスパタの行動にも影響がある。
「雪原で遮蔽物もない場所だ。敵なら問答無用で攻撃してくるだろうな」
ビーコンを感知した位置につくと、氷床を割って巨大な金属製の建造物がせり出した。
「ホークサイズのエレベーターか」
扉が開き、スパタが乗り込むと扉は閉まり、自動的に下層へ移動する。
『地表より五キロメートル降下』
サポートAIが現在地を示してくれる。
『地表より十五キロメートル降下。地殻第二層に入ります』
火星の地殻は三層になっている。その下は地球と同じくマントルとなる。
『地表より二十キロメートル降下。地殻第三層です』
「想像以上に深いな。さすが地磁気管理施設といったところか……」
エレベーターが停止した。
扉の向こうには金属で出来た巨大な空間が広がっていた。眼前に二機のホークらしき兵器が立っている。
ライフル状の武装を装備しているが、構えてはいない。戦闘態勢ではないということだ。ネフィリムも含めて過去の兵器が人型であるという利点は、このような状況を表現する場合にも便利だ。
ホーカーも武装を構えない。右腕部も喪失している。逃げ場もなく、撃とうと思えば簡単に制圧できるはずだ。
「そのシールドバインダーはジーンのものだろう?」
ホークに搭乗しているらしいドワーフたちとジーンは顔見知りのようだ。ホーカーに敵意がないとわかると通信による会話を試みてきた。ホーカーも応じる。
「そうだ。俺は返却に来たジーンの代理だ。あんたたちにこのシールドバインダーを渡せば、俺の目的は終了だ」
「待て。それは我らが主人がいる場で返してもらおう。謁見してもらう。失礼のないようにな」
(謁見、か。大物なんだろうな)
ELやゲニウスにも格は存在する。上位神を名付けられている超越知能ほど、神の代弁者や皇帝のように扱われる。
「了解した。ジーンからは契約を重んじる公平なゲニウスだと聞いている」
「その通りだ。俺達も生体ゲニウスだがな?」
「……生体のゲニウスか。初めて見たぞ」
ホーカーが生まれ育ったスサノオスフィアには生体ゲニウスはいなかった。
ジーンの父は生体ELだったそうなので、生体ゲニウスも当然いるのだろう。
「ELと一緒でゲニウスも最高級処理能力をもつ主神の名を冠したものから、意識があるAIという普及レベルまで様々だ。俺達はその僅かな生き残りだ」
「俺達は神様を模しているのではなくドワーフだがね。伝説にあるほどちびではないが、背は多少低いな。悪魔でもないぞ」
通信チャンネルが開かれ、二人の姿が映し出される。髭面の、やや背の低い壮年男性が映し出された。
「地上のノワール地域の噂とは違うな。――北には魔王がいて、その地下には魔王の軍勢がいると」
「俺たちが軍勢に見えるなら眼を診てもらったほうがいいな」
「まったくだ。俺もそう思う」
三人は笑みを交わす。意気投合できたようだ。
「俺はホーカー。ただの
「そうか。俺はドヴァリンだ」
「ドゥリンだ。ところでジーンは、そのやはりか」
ホーカーが来訪したことで、察したのだろう。
「そうだ」
「わかった。ついてこいホーカー」
二機に誘導されてスパタは移動する。
地下とは思えぬ巨大な空間に案内された。
ホークよりも一回り大きい鋼の巨人がいた。顔はホークと違い、普通に目、鼻、そして口まで再現されているので彫像のようにも思える。
何よりも威厳があった。北の魔王と呼ばれるに相応しい存在だった。
(まさに魔王では?)
ホーカーがその威容に感嘆の溜息を漏らす。
「我が主はエーシル神族と呼ばれるゲニウスの系統だ。俺達はその末端に属するサポートTIにあたる」
「エーシル神族か。北欧神話をモチーフにしたゲニウスだと聞く」
「そうだ。我が主は無口ゆえ、俺たちが代理で話そう。お前はジーンの使いで間違いないな」
「その通りだ。まずは返却を済ませたい。シールドバインダー一基は二隻の艦砲射撃により融解した」
ジーンから受け継いだシールドバインダーを取り外す。ドヴァリンが受け取った。
背後のコンテナから、オリフラムに備えられていた深紅のリアクターを取り出してドゥリンに渡す。
「二つとはクリムゾンリアクターのことか。よく回収できたな」
「頼まれたからな」
ホーカーは外の環境を精査する。スパタは片膝をついて敬意を示すオマージュと呼ばれる姿勢を取った。
問題無いと判断したホーカーはスパタの脚部装甲を展開する。
二重構造になっており、コックピットハッチを開いて、昇降用ワイヤーを用いて地面に降り立ちスパタと同じように片膝をつく。
「ホークの中から失礼した。俺はスサノオスフィア出身の
ドワーフたちも同じく地面に降り立った。先にコックピットから降りたホーカーに思うところがあったようだ。
「我が主とジーンとの約定は達成された。約束は守らなければならない。こちらこそ礼をいうホーカー」
「俺もからだ。ジーンは人々のためにと力を願った。その結末も警告されたようたが、彼女はその結末さえも覚悟して受け入れた。そしてその通りになってしまったようだ」
ホーカーは二人のドワーフと握手を交わした。
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