第3話 壊れたのは唯一の可能性
事前の
かつてこの地にあったローフィス王国の元将軍であり、ブラウトリア王家の祖となった聖王マンフレートが、狂った王の暴政によって荒廃した国を救済する
そして、連盟の中核を
聖地であるが
会談の場に立志の神殿を指定される確率は、相当に高いと予測していた。
ならば、そこに罠を仕掛けてやるのが
以前の調査で、神殿の地下には巨大な空洞があると確認してある。
正確な広さは不明だが、高さだけで十数メートルはあるとの報告だ。
既に、合図と同時に巨大な落とし穴を発動させる準備は終わっている。
いくら警戒していても、神殿が丸ごと落下するカラクリは見抜けまい。
数日もすれば会談の日時が決定し、一時的な停戦も行われるだろう。
そして私は、革命軍と連盟軍の中枢と共に
となれば
事後の我が悪名は空前絶後となるだろうが、それも
唯一の心残りは、
ここは遺言がてら、簡単な手紙でも
※※※※※
ジギーと
革命軍と連盟軍の首脳部を道連れに自爆する準備は、着々と完成に近付いていた。
全ては順調に推移し、このまま何も起こらないのを祈るばかりだったが――
「ほっ、報告、致しますっ! ヴィスギア要塞の親衛第三師団が出撃、第十二軍と合流した後、敵主力が集結するクンドゥナ平原にて決戦を
顔面
久方ぶりに落ち着きを取り戻していた会議室が、一瞬にして凍りついた。
「……はぁ!?」
無意識に立ち上がり、間抜けな声を漏らしてしまう。
信じ難い言葉を
相手が圧倒的優勢だというのに、正面から敵軍主力に突撃する?
というか、あんなにも慎重に進めていたニセ会談はどうなった?
「馬鹿な! 現在の兵力差では正面からの攻撃など自殺行為だ!」
「大公は気でも触れたのか! 作戦の即時中止を伝えよ!」
参謀たちの怒声で、危うく飛びかけた意識を引き戻す。
そうだ、独断で作戦を変更するにしても、あまりにも無謀すぎる。
第十二軍は宣伝のため「祖国防衛の
兵の質はともかく、士気は最低に近いし兵力も通常の一個軍の半数に満たない。
そんな状態の兵を攻勢に
何が起きたかを考えている内に、最悪な事態の予想に辿り着いてしまった。
「……もしや、フェルディナントが要塞に向かったのか」
「ハッ! 伝令よりの報告では、皇太子殿下がヴィスギア要塞へと入城し、元帥との会談の後に
「そういう寝言はどうでもよい。出撃は
「昨日の日没後、であります!」
「つまり要塞の兵力と十二軍は、もう既に……」
指揮能力が皆無なフェルディナントでも、
そしてフェルディナントの無能ぶりでは、惨敗を
帝国を救う最後の機会は失われた――父子揃って、どこまでも私の邪魔をする!
国を守ろうと、民を救おうと、命を捨てる覚悟すら踏み
「ふっ、ふふふふふっ……ふはっ、ははははははははははははっ!」
片手で顔を
衝撃のあまり心が壊れた、とでも思っているのだろうか。
残念ながら、私の心など
存在せぬものは、壊れもしない――壊れたのは唯一の可能性。
絶望的な惨敗を回避し、僅かなりとも希望が残る講和に
そのために
フェルディナントの
私が産んだ嫡子――に偽装しろとガスパールに命じられた、血の繋がらない息子。
それでも愛情を
教育係は
学業的にも知能的にも問題なかったが、成長後の人間性には大いに問題があった。
「して、大公は
「それが、情報が
「……
何があったにせよ、変事を伝える連絡がないので、ジギーは無事ではあるまい。
投げ
魂なんてものが本当にあるなら、きっとこの数十秒間に放出されているだろう。
重量感たっぷりの沈黙が続く中、汗だくの伝令が扉を
「報告っ! フェルディナント殿下率いる我が軍は、クンドゥナ平原にて賊軍へと強襲をかけるも敗退!
「いっ、
「組織的な抵抗は既になく、包囲された兵の大半は降伏した模様! 脱出に成功した残存兵力は、西方のシュメインへと退避しております!」
「それで、殿下は……フェルディナント殿下は、無事であろうな?」
「小官が
馬を走らせ続けたのであろう伝令は、細かく震える手で敬礼したまま、
既に動かしようがない状況だったが、それでも軍の壊滅が完全に確定した事実は、私にも深刻な精神的打撃をもたらした。
決めるべきこと命じるべきことは無数にあるが、まともな思考が不可能に近い――少しばかり、落ち着くための時間を貰うとしよう。
私は席を立ち、
「戦況の急変への対応を考えねばならぬ……
「わっ、我々はどのように……」
「そなたらは、シュメインからの撤退命令と帝都への増援要請を出した後は……クンドゥナの敵軍の動静を中心に情報収集を急ぐがよい」
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