第2話 生徒会長のゴリ押し
「今朝のテレビ見たか?」
「当たり前だろ!予告状が届いたのをニュースで聞いた時から俺はずっと楽しみにしていたんだから」
昼休みの食堂。巷で話題の怪盗の話をしている人達の話に耳を傾けながら、俺ーーー尾田川咲夜はカツカレーを食べていた。
ここの学食のカレーは美味しいと有名で、学園祭が開催されると毎回一般のお客さんによって売り切れてしまう。もはやレトルトを出して欲しいレベルで俺も気に入っている。
「今回も決着は付くことはなかったけど、二人とも華麗にお宝を盗んでカッコよかったな〜」
「それな! しかもカッコいいのに、雰囲気からして可愛いのが分かるから素顔が見たいわ〜」
それにしても怪盗の話が盛り上がっているな。
テレビの特集にもなるくらい有名だから少しの知識はあるけど、そこまで熱中することはないな。
それに現在の“シャインナイト“と“アリマーズ“は二代目という噂があるから、やはり怪盗と言ったら初代に限る。アニメとかも初代が一番っていうくらいだし。まあ現実世界では歳には勝てないのが当たり前なんだけどね。
「雑用くん、ここで何しているのかしら?」
食事を終え、食器を片付けようと椅子から立ち上がった瞬間、横から声を掛けられた。
視線を向ければ、そこには生徒会長の月乃森輝夜先輩が腰に手を当てて立っていた。不機嫌そうな顔を浮かべながら。
(相変わらずの雑用くん呼び…)
「月乃森先輩…こんにちは。 その…昼休みなのでお昼を食べていたのですが…」
恐る恐る挨拶をする。
約束を破っていた訳でもないから怒られることはないけど、不機嫌そうな月乃森先輩を見ていたら自ずと自衛に走るのも仕方がない。
「確かにお昼は大事よね。でもね、もっと大事なことがあるわよね?」
「大事なこと…?」
「えぇ、私と生徒会室でお昼を一緒に食べるという大事な仕事があるでしょ?」
月乃森先輩の発言に周囲がざわつく。
「そんな約束をしていませんよね。てか、初耳なんですけど!?」
「確かに約束はしていないわよ。私は言ったわよね、【仕事】だと」
「強調しなくても聞き取れていますよ。それで俺の生徒会での仕事は資料整理ですよね?」
「それも雑よ…庶務としての大事な仕事よ」
いま一瞬だけど雑用って言い掛けたよね。月乃森先輩にとっては庶務=雑用の考え方になるのか。
「どこの学校に聞いても生徒会庶務が生徒会長と昼食を一緒にする仕事なんて聞きませんよ」
「実例がないのなら、これから実例を作ればいいのよ。この学園の生徒会庶務の仕事内容は私が決めるのだから」
腰に手を当てながら、キリッとした表情を向けてくる月乃森先輩。
り…理不尽すぎる気がする。
だけど生徒会長としての先輩はかなり優秀だから、誰も異論反論はしないんだよな。
それに段々と騒がしくなってきたし、ここで言い争っても勝ち目もない。俺から折れるしかないか。
「分かりました。とりあえず、一旦ここから移動しましょう。周りの目が気になりますので」
「私は気にしていないから別にここでもいいのだけど、雑用くんがどーしてもと言うなら仕方がないから生徒会室まで移動してあげるわ」
「それでいいので早く生徒会室に移動しましょう」
そう言い、俺は食器を返却口へと持っていき、月乃森先輩と一緒に生徒会室へと向かった。
生徒会室に着くと月乃森先輩は生徒会長専用の椅子に座り、その目の前にある椅子に俺は座った。
「それでお昼を食べる仕事と言いましたけど、見ての通り俺は食堂でお昼を済ませてしまいましたよ」
「そうね。 だから、私のお昼の話し相手でもしてもらおうかしら。 当然、私はお弁当を食べながらになるけどね」
「それは構いませんけど…こんな俺なんかで話し相手になりますかね?」
「なるわよ」
自分のことは自分自身がよく分かっている。だからこそ、完璧な月乃森先輩と俺では完全に話し相手として釣り合わない。コミュ力がないから。
だからこそ、月乃森先輩からの圧倒的な信頼があるような返答に困るところがある。
(まあ…当たって砕けてみるか)
月乃森先輩は鞄からお弁当を取り出し、机の上に広げ、「いただきます」と言って食事を始めた。
「うん。今日の伊達巻きも最高に美味しいわね」
「………」
「叔母様が作る料理はどれも最高だわ」
「………」
目の前に広がる光景に俺は呆然としながら、月乃森先輩の食事風景を眺めていた。
(お重のお弁当箱なんて初めて見た)
月乃森先輩がいい所のお嬢様だというのは知っていたけど……ここまでとは想像以上だ。
と、ボーっとしていないで仕事をしないとだな。
「そのお弁当は叔母様の手作りなんですね。ここから見ても全て美味しそうですね!」
「……」
月乃森先輩の箸が止まる。
そしてお重のお弁当箱を腕で守るようにすると、こちらに睨み付けるような表情を向けてきた。
「あげないわよ」
「先程、カレーを食べていたのを見ていましたよね? それでお腹いっぱいですから」
「ということは、雑用くんはお腹が空いていたら私のお弁当を狙っていたことになるのかしら?」
「なりません!!」
どこをどうしたら狙う話になるんだよ…。
確かに美味しそうだとは思うけど、月乃森先輩のお弁当を狙ったら何されるか分からないだろ。
主に月乃森親衛隊の人たちとかに。
「そう」
そう一言言うと、先程までの話に関心がなかったかのように黙々とお弁当を食べ進める月乃森先輩。
その様子を静かに見守りつつ、何か話題がないか周囲を見渡すも何もない。下手に話題を作っても的外れ的な感じになり、先程と同じ光景になるのは目に見えている。
(生まれた時からコミュ力があればこんなに苦労せずに悩むことはなかったのに)
そう思いながら食堂で買っていた水を飲み、もう一度話し掛けようと決意した瞬間、月乃森先輩の机の上にあったスマホが震えた。
「………っん」
月乃森先輩は箸を置き、スマホを手に取り画面を確認すると、顔に手を当てながら大きなため息をついた。
「あの…ため息をついていましたが大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、雑用くんが心配するようなことはなにもないから。 個人的に面倒くさい連絡だったからね」
「そ…そうなんですね」
何でも完璧にこなす月乃森先輩に面倒くさいと思うことがあるとは新鮮に感じるな。
「そうゆう訳だ。 それで、こちらから仕事を頼んだのだが、少し連絡しなければならないことができたから解散にしてもいいかしら?」
「あっ、はい。 自分は大丈夫ですよ」
寧ろ、話す話題がなさすぎて、かなり助かりますって感じだし。
「このお礼は後日させてもらうわね」
そう言って、月乃森先輩はお弁当箱を片付けると、生徒会室を出てどこかへと行ってしまった。
(何も出来ていない俺にお礼があるだと…?)
そんな疑問を思いつつ、俺は生徒会室を出て、自分の教室へと戻った。
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