美人生徒会長と人気絶頂中のアイドルが怪盗で、俺を求めて盗んだ宝でアプローチしてくる
夕霧蒼
第1話 美少女怪盗の長期任務
四月下旬。都内にある美術館には夜にも関わらず、沢山の見物人と警察が集まり騒然としていた。
美術館の屋根の上に人影が現れる。
「この絵画はシャインナイトが頂きましたよ」
それは巷を騒がせている怪盗ーーーシャインナイトが美術館に侵入し、予告状にある通り目当ての美術品を盗んだからだ。そして、もう一つ見物人が楽しみにしていることがある。
「私、アリマーズは刀剣を頂きました」
もう一人の怪盗ーーーアリマーズの登場だ。
怪盗ーーーシャインナイトが絵画や宝石を専門とすれば、怪盗ーーーアリマーズは刀剣や純金製品を専門とする怪盗である。
「また貴方ですか、アリマーズ。いつもいつも私の予告状と被せてきて迷惑なのですよ」
「それはこっちの台詞ですよ。私が狙うお宝ちゃんと貴方が狙うお宝ちゃんが同じ場所にあるのがとてよ迷惑なんですよ。 どうせなら引退してくれませんか?」
「はぁ…?! そっくりそのままお返ししますよ」
「今のところ引退する予定はありませんので、先輩であるシャインナイトさんがどうぞ」
「絶対に嫌でーす!!」
実はこの二人ーーーとっても仲が悪かった。
この仲の悪さの原因となるのが二人の先代の話まで遡ることになる。先代は今の二人のように怪盗の仕事をして切磋琢磨するライバルだった。常にどちらが沢山のお宝を盗めるか勝負をしていたが、何故か決着がつかないまま時が過ぎていきーーー現在進行形の形になっていった。
「そこまで言うならアリマーズが警察に捕まったらどうですか? とっーても悔しそうな顔をしていますから手柄の貢献でもなさるといいですよ」
下を見れば女刑事がハンカチを咥えながら、悔しそうな顔をして屋根を見上げていた。
「確かに悔しそうな顔をしていますね。そこまで心配しているなら先輩が貢献なさったら? 私は貴方のことを一生忘れませんから、ね?」
「その笑顔は信用できませんね。 そもそも貴方の言動一つ一つが信用できませんから。何でしたっけ、本職は人気絶頂中のアーーー」
突然、シャインナイトとアリマーズのスマホに通知が入った。シャインナイトは最後まで言い切れず不満そうな顔をして、アリマーズは何かに安堵した様子をしてそれぞれスマホの画面に目を移した。
「「な…何ですって?!」か、これは?!」
画面から視線を離した二人は、すぐにお互いに視線を合わせた。
「もしかして先輩も同じ内容だったりします?」
アリマーズはスマホの画面を見せた。
「そのまさかよ」
シャインナイトもスマホの画面を見せた。
「「………」」
二人は数秒の沈黙の後、大きなため息をついた。
「当主の命令となれば逆らうことはできませんね」
「こちらも同じです」
「では、ここは一旦停戦ということで一緒に行きましょうか。私の屋敷へと案内しますよ」
「そうですね。 不本意ですが当主の命令と思えば我慢はできますしね。では、よろしくお願いします」
話がまとまった二人は警察に「ごきげんよう」と告げ、闇の中へと消えていった。
○
閑静な住宅街に一軒の大きな屋敷が立っていた。
その屋敷は周囲を塀で囲われており、中の様子を一切確認できないようになっている。
そんな高さがある塀の上に二人の人影があった。
「はーい!このアリマーズが一番でーす!」
「それはおかしいと思います。そもそも私が案内しなければ屋敷の場所も分からないのですから、この件に関しては勝負は関係ありませんよ」
「おやおや、シャインナイト先輩は負け惜しみをしたいのですか〜?」
「うるさいです。 あと住宅街なのですから怪盗ネームを大きな声で言わないでください」
周囲に住む人たちにとって、この屋敷の住人は起業に成功した実業家だと思われている。
実のところ周囲の人たちの思っている通り、この屋敷の人は実業家で間違いない。が、その成り上がり方が色々と特殊であった。なので、怪盗のことは周囲には知られていない。
屋敷の縁側に二人の人影が現れた。
「輝夜、貴方こそ声が大きいですわよ」
「アリス、こんな幼稚なことで勝ち誇っていてはダメですからね」
「 !? す…すみません。裕子叔母様」
「 !? ご…ごめんなさい。玲子叔母様」
現れたのはこの屋敷の当主である月乃森裕子。シャインナイトこと月乃森輝夜の叔母様になる。
もう一人は火野宮玲子。アリマーズこと火野宮アリスの叔母様になる。
ちなみに二人の怪盗の師匠であり、現在進行形で進んでいるライバル関係の原因の人達でもある。
塀の上から降りた二人は叔母様の後ろについて行き、大きな部屋へと辿り着くと、それぞれの家同士で座ることになった。
「それでは簡単な自己紹介からしましょうか。 私はこの月乃森家当主の月乃森裕子と申します。アリスさん、以後よろしくお願いします」
挨拶を終えると、裕子は隣に座っていた輝夜に軽く肘を当てた。
「わ…私は月乃森輝夜と言います。二代目シャインナイトをしております」
輝夜が挨拶を終えホッとしていると、アリスは輝夜に向けてニヤニヤ笑みを向けてきた。
「次は私達の番ですね。 私は火野宮家当主の火野宮玲子と申します。 輝夜さん、以後よろしくお願いします」
玲子も裕子と同じく隣に座っていたアリスに軽く肘を当てた。
「私は火野宮アリスと言います。二代目アリマーズをやってます。現役高校生アイドルです…いたっ」
「余計なことを言わなくていいのですよ」
アリスは扇子で叩かれた頭を軽く押さえながら、「ごめんなさい」と呟いている。
その様子を見て、輝夜はさっきの仕返しとばかりに嘲笑うように口角を上げた。
「輝夜もですよ。 それで学園の生徒会長をやっているなんて信じられませんよ」
「お、叔母様!? 何故、叔母様がカミングアウトをなさるのですか?!」
「相手が身分を明かしたのなら、こちらも明かすのが礼儀だと分からないのですか」
「それとこれとは話が別だと思います!!」
「………では、本題へと進めましょうか」
「叔母様!?」
自分の意見を聞いてくれない叔母様に頬を膨らめつつ、これ以上無理だと分かっていたので叔母様の話に耳を傾ける輝夜。
その様子を見ていたアリスはさらに仕返しとばかりに「ざまぁ」って言ってそうな顔をしてマウント顔を取る。
そんな二人の攻防を無視をして、裕子は一つ咳払いをして話を始めた。
「貴方たちが仕事をしている頃、月乃森家と火野宮家の両家に一通の手紙が届きました」
裕子は話しながら懐から白い封筒を取り出し、自分の目の前に置いた。同時に玲子も同じく白い封筒を取り出し、同じように自分の目の前へと置いた。
「その手紙には何と書いてあったのですか? あと手紙の差し出し人は誰なんですか?」
「順番に説明しますから落ち着きなさい、輝夜。まず火野宮家の当主と一緒に手紙を確認したところ、内容は全て同じでした。そして内容はある人と恋人関係になり、その人が持つとある箱のロックを解除して中身にある物を取ってみなさいでした」
手紙の内容を聞いた輝夜とアリスは驚いた表情をしたが、すぐに落ち着きを取り戻した二人は同時に裕子に聞き返す。
「恋人関係になるとはどうゆうことですか?! それに中身にあるものやロック解除とか意味が分かりません!!」
「同感です!! 何故、怪盗である私達が恋人関係にならないといけないのですか!!」
二人の意見を聞き、裕子と玲子は顔を見合わせ、そして一つ頷き口を開いた。
「これには深い理由があるのです」
「どうゆうことですか、叔母様?」
「昔、私達が現役の頃にとんでもない仕掛け屋をする女性がいました。彼女は高校生ながらも色々な仕掛けをして私達を追い詰めていきました」
「その結果、私達は捕まることはなかったのですけど、ライバルとしての決着が付かないまま引退してしまったのですよ」
「先代にそんな過去があったなんて」
「私も知りませんでしたわ」
輝夜やアリスが知っているのはあくまで本人の口から伝えられたことのみ。その本人たちは過去の栄光しか伝えていないのであれば、彼女たちが知らないのも無理もない。
「その彼女が数十年振りに手紙を寄越してきました。これが一つ目の答えです」
「手紙の差し出し人が叔母様を苦しめたーーー仕掛け屋の人」
裕子の言葉に深刻な顔をする輝夜。
「そして手紙の内容になるのですが、簡単に言えば『私の息子の婚約者候補を貴方たちの娘にするから誘惑してみてね。あと息子に仕掛けを施した箱を渡しておくから仕掛けを施したお宝を盗んで解除してみてね。箱の中身は婚姻届と秘密の部屋に入るための婚約指輪だよ』という感じですね」
「な…何ですか?! 内容も内容ですが叔母様に対して無礼な態度ではありませんか?!」
「不服ですが、私も同感です。 尊敬する叔母様に対して失礼極まりないと思います」
「輝夜さん、アリス、二人とも落ち着いてください。先程も言いましたが、この手紙の主とは数十年の知り合い。この程度は承知の上なのです」
玲子の言葉に納得はいかない顔をしていたが、二人は「分かりました」と言い、輝夜が改めて聞き返した。
「それで私達の仕事はその息子の人と恋人関係になりつつ、彼が持つ箱を解除することですか?」
「そうですね。ですが、私達の見解としては二人のどっちかが本当に恋人関係になり、尚且つ結婚をしてもいいと思っています。その結果、お宝は必然的に手に入りますので。 その前に解除に必要なお宝を盗んでくる必要がありますけど」
「やはり…そうなるのですね」
「現役アイドルが恋人を作るなんて…ありえない」
「予想通りの反応ですね、アリス。 ですが、輝夜さんは彼の名前を聞いたらどうなるかしらね」
「そうですね」
現当主の二人が何か含みがあるような言い方に、輝夜は少し警戒をした。
「どうゆうことですか。 その彼と私が何かしらの関係があるというのですか」
「尾田川咲夜」
裕子の発言に輝夜の目が大きく見開いた。
その名前にピンと来ないアリスは首を傾げている。
「やはり知っていましたね」
「………私の生徒会のメンバー……後輩です」
「えー!! 後輩くんとの恋なんていいですね〜!」
「アリスは黙っていなさい」
「ごめんなさい…」
「そうです。輝夜、彼は貴方の後輩です」
「叔母様。 つまり彼に正体…シャインナイトの正体が私だと教えることになりますが…」
「問題はありませんよね? 貴方が一番分かっていると思っていますが?」
「……ぐっ。 分かりました」
反論できない輝夜を目の前にして、アリスは何かを思いついたように手を挙げた。
「なら、私もやりまーす! こんな面白そうなことを見逃すことなんてできません!!」
「どうやら話がまとまったようですね」
「色々と大変だと思いますが、お二人とも頑張ってください」
「………はい」「はーい!!」
それから輝夜とアリスはロック解除に必要なお宝の情報や尾田川咲夜の詳細などを叔母様たちと話し合った。
ただ、お宝(十二星座と干支を模した品々)の数の多さに二人は少し顔を引き攣っていた。
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