14歳ー傭兵団『烏の爪』結成編 第11話 武器を持て
「欲しいものがあったら力ずくで奪う。それがスラムの流儀だ。ちゃんとそこを理解しているてめぇのその心意気だけは褒めてやるぜ、貴族のお坊ちゃん」
目の前に立つのは、剣を構えるルキナ。
俺はジェイクから剣を貰うと、刀身を確認する。
子供でも扱える、軽量で刀身の短いショートソードか。
使い古されているためか刃こぼれが目立つが、別段、これでも問題はない。
ヒュンと剣で空を斬ってみせると、背後にいるマリーゴールドが恐る恐ると声を掛けてきた。
「レイスくん、やめといた方が良いんじゃないの? ルキナってば、大人の男の人相手でも勝てないくらい、剣の腕があるんだよ? 絶対やばいって……」
その言葉に、マリゴールドの隣に立つジェイクもうんうんと頷いた。
「オイラもマリーに同意するよ。ルキナは仲間には優しいけど、敵と決めた奴には容赦しないんだ。絶対に殺されるよ、君……」
「問題はない。俺はこんなところでは死にはしない」
俺は前に出て、ルキナと対峙する。
ルキナは俺を見て、ハンと鼻を鳴らした。
「アタシは貴族が大嫌いだ。アタシはこうみえても元は、騎士の家の出でね。代々騎士王家の親衛隊長を務める家の出だった。だからアタシも父さんのように、ゆくゆくはグレイス殿下に仕えるようになるんだって、そう思ってた。そんな矢先に――王陛下がグレイス殿下に暗殺されて亡くなってしまった。勿論、アタシの父さんはグレイス殿下が王陛下を殺すわけがないって、アグランテ家に訴えたが……親アグランテ派閥の貴族たちに、でっちあげの罪を着せられ、処刑させられてしまった」
何……? この子、親衛隊長の娘だったのか……?
俺が驚いていると、ルキナは続けて口を開いた。
「だからアタシはアグランテ家も貴族も大嫌いなんだ! 父さんを嵌めた貴族どもは、アタシの父さんの頭を街に晒し首にして置いて、唾を吐きやがったんだ!! このアタシの怒りがお前に分かるか、貴族のお坊ちゃん!? お前のその傲慢な目つきは、アタシが嫌いな貴族そのものだ!! 何も怖いものがないような顔をしやがって!! 虐げられる者の気持ちを少しは思い知りやがれ!!」
ルキナは剣を構えて、俺に突進してくる。
そして、俺の傍まで近寄ると、彼女は袈裟斬りを放ってきた。
俺はその剣を、軽く剣に当て、弾いてみせる。
ルキナは俺の素早い剣の動きに驚くが、再度、剣を振ってくる。
逆袈裟、袈裟斬り、唐竹割り、右薙ぎ、左切上げ、袈裟斬り。
あらゆる方向から剣を振ってくるが、俺はそれを全て最小限の動きで剣に当て、弾いてみせた。
粗削りの我流の剣だ。確かに子供にしては重い剣を放つが、王宮剣術を習った俺の敵ではない。
「な、何故だ! 何故、アタシの剣はお前に当たらない……!!」
「お前の怒りは最もだが……奴らへの憎悪は、俺も、敗けてはいない」
俺はトンと、ルキナの膝を蹴り、彼女をよろめかせる。
そしてルキナの顔を掴むと―――――――そのまま地面に激しく叩きつけた。
後頭部を激しく殴打するルキナ。
その後、彼女の顔の横に剣を突き刺すと、ルキナは「ひぃっ」と怯えた声を漏らす。
俺は自分の顔を彼女に近づけさせ、俺の瞳の中にある闇を見せた。
「ルキナ。お前はただ感情まかせに剣を振っているだけだ。その程度では、この俺を殺すことはできない。俺は、お前のようにでたらめに憎悪を振りまくような真似はしない。憎しみを抱くのなら、お前の父を殺した貴族だけを恨み、そいつらだけに憎悪を抱け。全てを奪われたんだろう? だったら、もっと内にある怨嗟の炎に薪をくべろ。駄々をこねるだけならば、誰だってできる」
俺の目を見て、ルキナはガクガクと身体を震わせる。
ルキナを屈服させた俺の姿を見て、マリゴールドはポカンと、呆けた表情を浮かべた。
「嘘……あのルキナに勝っちゃった……何者なの、この子……」
俺は顔を上げ、立ち上がると、廃墟にいる孤児たちに向けて口を開いた。
「良いか、お前たち!! 今日から俺がお前たちの長となる!! まず最初に、窃盗団ではなく、今後は俺たちの名を傭兵団と改名させてもらおう!! 俺についてこい!! お前たちに安寧な暮らしと勝利するための力を与えてやろう! 今の理不尽な世界に嫌気が差しているのなら、この俺の配下となれ、孤児たちよ!!」
俺のその発言に、ベランダに立っていた四人は、廃墟の中へと戻っていく。
そして数分後。四人の孤児たちは、廃墟の入り口から出てきた。
「本当に金にありつけるんだよな? いや、金よりもあれだな。オレは将来、ベッドの上で可愛い女の子たちを侍らせたいな、うん。どうだい、大将? 将来このオレがモテモテになる未来があるってのなら、あんたの話に乗らなくもないぜ?」
そう言って出てきたのは、先ほど俺に声を掛けてきた、茶髪の長身の男だった。
彼は前髪にクシを通し、キランと、白い歯を輝かせる。
「ガウェイン! 貴方は本当、いつもふざけたことを言いますね! それでも私と同じ騎士の子供ですか!」
そう言って彼を注意したのは、長い金髪の少女。
彼女は俺と目が合うと、礼儀正しくお辞儀をしてきた。
「初めまして、レイス殿。私の名前はモニカと申します。先ほどの不埒な発言をしたこの男は、ガウェインといいます。ルキナとガウェインと私は、幼馴染で、将来グレイス殿下にお仕えする予定だった親衛隊騎士家の子供です。ですが、アグランテ家が実権を握って以降、両親はギルベルト元騎士団長と共に反意を示し、結果、処刑されてしまいました。……以後、よろしくお願いいたします」
そう言って頭を上げると、モニカは自身の背中に隠れている少女に視線を向けた。
「そして、こちらの暗い少女は……」
「アビゲイル、です……ただの孤児です……私は、今の暮らしが変わるのなら……レイスさんの話を聞きたいです……」
黒髪でクマの深い大人しめの少女は、自身の三つ編みを撫でると、俯きがちにそう口にした。
そんな彼女に頷くと、モニカは背後にいる少年に視線を向ける。
「最後に。彼はルーカスです。この団の中ではスラム歴の長い一番の古株です」
「ルーカスだ。まっ、俺は金や暮らしなんてどうでもいいけどな。ただ……ルキナに勝ったあんたの動きには、興味をそそられた。いつか、手合わせして欲しいもんだ」
最後にそう言ったのは、一番背が低い、マントを纏った少年だった。
ガウェイン、モニカ、アビゲイル、ルーカスか。
そして彼らとルキナ、マリーゴールド、ジェイクが、窃盗団のメンバーか。
俺は周囲を囲む孤児たちをグルリと見渡して、再度、声を掛ける。
「先ほど言った通り、これからはお前たちには傭兵団として活躍してもらう。まずは明日、傭兵団詰所に行って登録を―――」
「それは無理だ」
そう口にして立ち上がったのは、ルキナだった。
俺はルキナに首を傾げ、声を掛ける。
「無理とはいったい、どういうことだ?」
「それは―――」
その時。俺たちの元に、三人組のゴロツキが近付いてきた。
ゴロツキはルキナの前に立つと、ニコリと、笑みを浮かべる。
「ルキナちゃーん。みかじめを貰いにきたぜー?」
屈強な男二人を引き連れた金髪オールバックの小柄な男が、ルキナにそう声を掛ける。
ルキナは慌てて佇まいを正すと、懐から袋を取り出し、それを男へと手渡した。
男は袋を受け取ると、その中にある貨幣を数えていく。
「ひい、ふう、みいーっと……あれ? 二枚、銀貨が足りないねぇ?」
「いや、その……最近、店側も警戒してきていますから、その……盗むのも難しくて……」
終始笑みを浮かべていた男の表情は一変、彼はルキナの腹を蹴り上げると、憤怒の表情を浮かべ怒声を放った。
「俺たちはてめぇらガキどもを慈悲深くスラムに置いてやってるってのに、みかじめもろくに支払えないってのは、いったいどういう了見なんだ、おい!? 盗みで稼げないってんなら、身体で払うか!? おぉ!? てめぇらみたいなガキを好む金持ちの変態なんざ、ゴロゴロと転がっているからなぁ!! そっちで売ってやったって良いんだぞ!?」
そう叫び、ルキナを蹴り続ける金髪の男。
俺はそんな彼の足を掴み、ルキナへの暴行を止めさせる。
すると、男は、俺の顔を睨み付けてきた。
「あぁん!? てめぇ、見ねェ顔だな!? 俺が誰だか分かってんのか? あぁん!?」
「暴力で人を支配する、か。くだらないな」
「あぁ!? テメェ、クソガキこら、ぶっ殺してや―――」
「か、必ずみかじめは払います!! ですので、ここはどうかお引き取りを――!! こいつにもちゃんと言って聞かせますので!!」
そう言ってルキナは俺の頭を掴むと、男に頭を下げさせた。
その姿を見てチッと舌打ちをすると、男たちは去って行った。
俺の頭から手を離し、顔を上げると、ルキナは神妙な様子で口を開く。
「よそ者のお前は知らないだろうが、ここら一帯のスラムは、『
「そうか。なら、今から俺と共に『
俺のその発言に、孤児たちは一斉に目を丸くさせる。
「ちょ、ちょっとレイスくん! それはルキナに勝つよりも無謀だって!」
そう叫ぶマリゴールド。俺はそんな彼女に、鋭い目を向けた。
「では、お前たちは一生、飼いならされた奴隷のままだな」
「え……?」
「いいか? お前たち孤児というのは大人たちにとって格好の獲物でしかない。奴らはお前らに盗みを命じさせ、みかじめ料として定期的に食料以外の金品も盗ませているのだろう? 違うか?」
「それは……そうだけど……」
「お前たちは決死の思いで盗みを働いても、全ては汚い大人の利益に回される。このままでは一生、飼い殺しにされるだけだ」
俺は一呼吸挟み、再度、開口する。
「この理不尽な世界を塗り替えるには、戦うしかない。武器を持て! この世は弱肉強食だ! 弱いままでは強者に喰われて終わりだ!! この俺が導いてやる!! 自分を変えたくば、武器を持て!!」
俺のその恫喝に、孤児たちはゴクリと唾を飲み込む。
そして、七人の孤児たちは、それぞれ……武器を手に持つのだった。
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