第39話
ともかく剣は裁判官となって間もなく、私財を擲ってEJRを立ち上げた。非合法な組織であるからメンバー選びは慎重にならざるを得ず、また本来の仕事である裁判官も激務であるため、なかなか組織の充実は捗っていないが、活動は既にはじまっている。怪人カラスを追うのもそのひとつだ。
あるとき、EJRは他県で事件を起こし、越境して姿を晦まそうとした幼女誘拐殺人犯を捕縛した。
秘密裏に警察に引き渡そうとその身柄を移送中のこと、剣の運転するランボルギーニの屋根に衝撃が走った。次の瞬間に窓ガラスは粉砕され、突っ込まれた黒い鉤爪に犯人は顔面を引き裂かれた。
慌てて剣はハンドルを切った。屋根から振り落とされた黒い男。男は道路を転がり壁に激突した。気を失ったかあるいはと剣は状況を見守ったが、ゆらゆらと立ち上がった男は震える手で拳を握り、その拳でおのれの首のあたりを殴るようなしぐさを見せると、やがて姿をくらました。
それが剣とカラスのはじめての出会いだった。
剣はカラスに戦き、怖れ、怒りを覚えた。
同族嫌悪ではない、剣は明確にカラスに敵意を持っている。退治すべき者であると認識している。その行動は街の害悪を罰するものだとしても、その方法がまずい。同じ悪を排除するにしても、最終的な裁きは法律に委ねるべきだと剣は思っている。だから剣は刑法を背におのれの行動を律している。そうしなければ、どのような大義名分があろうとも所詮暴力にすぎない行為に歯止めが効かなくなってしまう。それこそ派手な動きを繰り返しているカラスと変わりなくなってしまう。そうはならない、なってはならない。
つまり。剣の判断では、カラスは悪。
悪は懲らす。
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