第36話

 浄は自分が出入りした通風孔にかかとを乗せた。足首に仕込んでいた仕掛けから鉱油、防錆剤、減摩剤などを混ぜ込んだ特殊な潤滑剤を流し込む。同時に何かの落ちる物音と叫び声が聞こえた。


 破裂したパイプから噴霧された高温の霧が狙いの薬であるならば、過剰摂取は命の危険があるはずだ。


 脳を開く合成麻薬ハネ。


 ダクトから男の叫び声が響く。銃声も響く。時折やはり女の悲鳴も混じる。そして浄は愕然とする。大人たちの悲鳴に雑じって子供の泣き叫ぶ声が聞こえたからだ。


「なぜだ!」


 なぜ子供がいる?


 そんなものはわからない。


 なぜあのような場所に子供がいるのか。子供が麻薬精製に従事していたとでもいうのか。


 浄はマンホールの蓋をこじ開けようとするが、手製の接着剤は優秀でまるで動かなかった。


「馬鹿野郎が!」


 自分に毒づく。黒いマスクを地面に叩きつけた。


 どうして子供がいた?


 どうしてもっと下調べをしなかった?


「くそッ! どうしてだッ!」

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