第34話

 闇に紛れた浄は、目についた銃を持った一人の意識を奪った。あと何人いるかわからないまま、二人目も昏倒させる。頸動脈を塞いで失神させるのだが、二人目はむやみに発砲した。恐ろしかったのだろう、失禁もしていた。


 どこかで悲鳴が上がる。流れ弾にでも当たったか。このようなところにいるのが運の尽きだと浄は思う。ただ気に入らないのが、悲鳴がどうも女のそれであったことだ。思わず舌打ちする。


 投げナイフをずらりと指間に挟む。ベニテングダケの毒が塗ってあるものだ。食せば三十分ほどで吐き気や発汗、そして幻覚や混乱を引き起こす毒キノコだ。その毒をナイフに塗っているのだからその毒は即効、傷つけられればあっという間に血流にのって毒素が身体じゅうに回る。


 無装備訓練時の山中で飢えに負けて何度か口にしたことがあるが、ベニテングダケの毒素のひとつであるイボテン酸には強い旨味成分が含まれている。そのため、味自体はとても美味かった。あとで散々吐いたのだが、身を以て学習すること以上に身体に染みることはないと思い知った出来事であった。


 床を滑るように移動し物陰に潜むのと同時に、予備電源により空間に明かりが戻った。


 浄はまた銃を持った人間に狙いを定め、今度は毒ナイフを投げた。狙い通り太ももに突き刺さったが動きは止まらなかった。さらに投げる、さらにもう一本。結局その男には、右足に三本、左足に一本ナイフを突き刺さしたが、まだ動いている。


 毒の効き目には個人差があり、思ったような効果が出ないことも間々ある。しかし毒はともかくとして、刃物が計四本も足に刺さった状態で動くことができる人間はそういまい。

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