第33話
幸運か悪運か、浄は地下空間に出ることができた。
空間は存外広いも、湿気と耐え難い薬品臭が充満していた。
黙々と作業に従事している人影が見える。銃を持った男が数人場内をうろついている。ここが違法薬物の密造工場であるならばそれは当然だ。
侵入者即殺。そうでなくては秘密は守れない。
浄は縦横無尽に張り巡らされたパイプを伝い天井に潜んだ。
浄は爪先で天井の配管からぶら下がると、手首に仕込んでいたタングステンのワイヤーロープを下へと垂らした。ワイヤーの先に作った輪をバルブの開閉レバーに引っ掛ける。そうした作業を光の届かない天井でこなす。物音ひとつ立てない。
単対多。そのシミュレーションは反吐が出るほど訓練した。
多数を相手にするときは、なによりまず場を見極めることが重要である。広い場所のど真ん中に、ひとりぽつねんと佇んでいたのでは袋叩きに遭うのは自明の理。いかに寡数でも不利にならない地点を見つけるか、環境を整えるか。有利に働くものはあるか、ないなら作り出せ。
浄は幾本も引っ掛けたワイヤーを、最終的に三本にまとめた。
銃など使わない。浄は手前勝手な懲罰人であって、殺人者ではない。自らで支度した道具のいくつかと、あとは場にあるものを利用するのみだ。
地下空間は電気ケーブルも剥き出しだ。これは好都合だった。浄はサバイバルナイフを一番太い電気ケーブル目掛け投げつけた。電圧に異常をきたしたことで電気系統がショートし、穴の中は真っ暗になる。慌てふためく声がする。
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