第29話

 浄が女子学生誘拐監禁暴行死事件を調べていると、副次的に違法薬物の密造の事実を知った。


 ここ数年Z市で出回り始めた、広義の意味での麻薬、通称『ハネ』である。


 事件の主犯格である少年が、ハネの密売組織とつながりを持っていたのだ。


 ある程度少年らを懲らしめた浄は、期せずして次の目標を得たことになる。


 密売人をひとりひとり潰すのも、カラス男らしくていい。


 しかし、組織となるとその規模もなかなかのもの。末端であろう密売人を何人病院送りにしても無駄だ。根を断つためには、情報を集めなくてはならない。


 浄は街へ出た。


 足は自然といつもの場所へ。あの店の主人は口が堅くて事情通。そしてなにより、このとき浄は腹が減っていた。


 店に入ると主人は、日に焼けた文庫本に目を落としていた。耳に触らない程度の音量で七十年代ロックが流れている。


「いらっしゃい」


 ずいぶんと通っているが、浄は主人の名を知らない。


「お酒は」


「飲まない」


「じゃあ何か作りますね」


 浄から何が食べたいともいわない。


 出てきたのはポトフだった。皮をむいただけのジャガイモやニンジンが、いい塩梅に煮くずれている。ほかにはキャベツ、玉ねぎ、豚肉と大雑把に切られて煮られていた。

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