第24話

 悪か、悪ではないかを決めるのは俺だ。


 善悪の裁量を個人に委ねることのなんと危ういことか。ただ浄は、その危険を考えるほど冷静にはなれない。いや、みずからを危険なる存在とするのだと思い定めた。


 最終目的は復讐。


 世の悪党がむやみに私刑に処されていくを見て、目標を精神的に追い詰めていく。震えで眠れぬようにしてやる。じわじわなぶり殺しだ。


 浄は覆面で顔を隠すことにした。


 猫殺しの男の一件は、場当たり的で迂闊すぎた。これからは衝動的な行動は避け、慎重になることだ。


 カラスが鳴いている。


 どうやら近くの電柱に巣を作っているようだ。


 市役所勤めの昔、環境課という部署に籍を置いていた浄は、よくカラスの巣を撤去しに行ったことを思い出す。子育ての時期、母鳥は気が荒くなり巣のそばを通るものを上空から攻撃する。なにより糞が汚い、集積所のゴミを荒らす、声が汚い、見た目が嫌だ等々、苦情は引きも切らなかった。


 カラスはただ生きているのみ。母が子を守るのは当然のこと。ゴミを散らかすのはそこに食物があるからだ。そこがどういう場所であろうとゴミの集積所としたのは人間の都合であり、そのゴミを食い散らかすのはカラスの都合。


 黒は不吉な色であり、その黒い色が気味が悪いから駆除せよとは、もはや理不尽きわまりない苦情といえる。


 自分も似たような存在になろうとしている。


 浄は自嘲した。


 ただ生きている、嫌われ者。


 ふさわしい姿にしなくてはなるまい。

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