第21話

 浄は顔をしかめた。野犬の仕業などではない、あきらかに人の手になるものだった。


 浄は死骸の惨さに顔を歪めたのではなかった。自分より弱い生き物を襲う、糞のような感性に嫌悪したのだ。


 生垣の向こうはくぬぎの雑木林となっている。去る影があった。


 浄は雑木林の中を進み、影の先回りをする。


「おい」


 襟首をつかむ。


「は、離せ!」


 年若い男であった。


「ど、どうせてめえも、尊い命をどうのこうのと御託並べるんだろ?」


 問う前に男は吐き出した。浄は男の首根っこをつかんだまま、ブランコのほうへ向かった。


 男はいてえだの警察呼べだのさんざ喚いていたが、猫の死骸に鼻っ面を突きつけるとおとなしくなった。それでも、


「野良猫なんてそこらにしょんべんする害獣だろうが! 殺してなにが悪い?」


 毒づくのをやめない。


 浄はその顔を改めて見た。


 とても凡庸な顔立ちだと思った。街ですれ違ってもわからない。


「あ? 云ってみろよ、何が悪い?」


「云わないとわからないか」


 浄は男の腰のベルトを抜き取り、その身を拘束した。ものの数秒の作業だ。さすがに若い男も興奮よりも恐怖が大きくなってきたようで、なにをするんだと震えた声を出した。


「助けを呼ぶか? 警察が来てもいいんだったな。好きにしろ」

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