第18話
大樹の梢にカラスが止まっている。どうやら代々根城があるようで、浄がいつ訪れても、何年たってもこの社に来て見上げればカラスがいた。
あのときもおそらくいたのだろう。
もしかしてすべて見ていたのかもしれない。そう思うと浄の心は乱れる。
憎しみと悲しみと、耐えがたい寂寥感。
たとえ見るに堪えない最期を、あの黒い鳥がその眼に刻んでいたのだとしても。見られるものなら見せてもらいたい、そう浄は思う。
「どうしてこうなった。誰が悪い、答えろ、誰が悪い! 悪い人間が平気で生きていける世の中なら、日々をつましく生きているものはいったいどうなるッ」
浄は樹上のカラスを見上げた。
どれくらい佇んでいただろう。夕闇が滲むころ、浄は稲荷社を跡にした。
月明かりに建築中の高層マンションの形影。その向こうには風光明媚な山。
遠目にも明るい街の中心を背に、足を引きずって歩く影。
部屋に戻ったところでなにもない。浄の足は自然となじみの飲み屋に向かった。
「いらっしゃい」
カウンターには黒髪で細身の女が一人。
「お身体よろしいの?」
鼻にかかった声を出す。
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