第16話

 昨夜のあれが夢や幻覚の類いではないと前提して、浄の胸もとにあった名刺に気づかぬ看護師はいないだろうし、況してや鎖につながれている状況を不審に思わない現状を鑑みれば、おのずと答えが知れる。


 この病院も天城の息がかかっている。


 Z市が現在、準政令指定都市とまで云われるほどまでに成長したのには、確かに天城豪春の力に負うところが大きい。政治家天城は捨身党の党首となる以前、政権下で開発庁の大臣を任されたほどの傑物であり、その絶大な権勢を大いに発揮し、選挙区の主要地域であるZ市に大いに恩恵をもたらした。


 宗教団体『蟻の会』の本部がZ市に移転したその翌年、同市に国道、主要地方道といった大幹線道路、有料自動車道を通し、二十年後には新幹線の駅もできる予定だ。


 先年、経済特区にも選ばれ、税金の大幅免除に伴い様々な企業の誘致に成功した。


 さらなる人口の増加に、当然ながら公共施設も充実し、争うように商業施設が店を開いた。


 すべてここ三十年ほどの話である。


 ただ、いいことばかりではない。急激な成長は秩序立った社会運行を阻害し、歪みをうむ。


 Z市はこの病院もある中心地にすべての都市機構が収まっている。


 二キロに満たない都市部以外とは川で隔たれており、その大半が田畑か野地であった。


 荒涼閑散とした周辺地域に暮らす者はと云えば、急激な都市化の波に乗り遅れた古くからのZ市民。


 一部の頭抜けた富裕者たちとそれ以外にわかれてしまった街。


 人口の増加は単純に犯罪も増やす。

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