第15話
あれほど自分の生が惰性であると感じていたはずなのに。今はひどく恐ろしい。それはひとえに苦しみだ。苦痛に苛まれ、苦痛に怯えている。情けない。
涙を流すつもりが、浄の双眸から零れ落ちたのは泥のような感情ばかりであった。
機械の不具合を告げる警報が鳴っている。赤いランプが点灯している。
行ったり来たりのサンダルの足音。
どうしてここに来てくれないと、浄は声にならない怒号を発する。ぶちぶちと眼球の毛細血管が切れる音がした。
死にたくない。
これほど不快な目覚めはない。
まるで動けない身でありながら、どうしたわけか拘束帯に身動きを封じられている。
昨晩のあれが夢でないのなら胸元に名刺、そして右手が鎖につながれているという奇態きわまりない姿だったはずだが、それを確かめるすべはどうやら浄にはない。
もう見慣れた看護師が検温に訪れる。浄は精一杯のうなり声をあげ、意思の疎通を図るもまるで通じなかった。
「無理しないことです、治りが遅くなりますよ」
「うう」
「ゆうべもそうやって動こうとして呼吸器を止めてしまったんでしょ? 駄目ですよ、黒住さん」
違う。そう訴えても無為。
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