第12話
医者からの説明では、右手骨折、左右肩部の脱臼、左右アキレス腱断裂、背骨の圧迫骨折、肋骨骨折数本、内臓損傷十数か所、頚部損傷、下顎部粉砕骨折、脳出血も見られるとのこと。
武岩はその気になれば、簡単に浄を殺せたはずである。その善悪の所在はべつとして、もし本当に加害者の少年の身を案じているなら、浄のごときもの排除してしかるべきだ。
どれほど天城豪春がZ市で絶大な権力を有していようと、殺人をもみ消すことなど容易ではない。否、金や労力をかけてもみ消すほど価値のある殺人ではない、と云いかえるべきか。
浄は目を閉じた。
葉子が泣いている。
笑っているのだろうか。
嘲っている、嘆いている。
病院の堅い廊下を、何者かが靴音高らかに歩いている。
浄はほぼ唯一自由に動く目を開け、ところどころ明かりの灯っている病室内を見た。靴音に雑じって看護師のサンダルの足音も廊下を行ったり来たりしているようだ。
時計がないので時間の確認もできない。照明の落とし具合を見て夜だろうことは判断がついた。
このまま死んでしまおうか。
死ぬにしても体が動かない。
浄は情けなさと寂しさに人知れず泣いた。泣いたところで涙を拭いてくれる人もいない。
革靴の音。医者だろうか。
戸が開き、スーツ姿の男が入ってきた。
浄は声が出せない。
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