第11話

 絶叫が廊下を疾った。


 浄の右肩は外れていた。


「どうだ、後悔しているかい。してね後悔」


 左肩も外す。足首を出鱈目に曲げ、腱を断つ。両足共。


「まだ気を失わない。失えない? 訓練の賜物か」


 訓練と聞いて、消え入りそうな意識の底で浄は武岩を見た。


「そんな顔して。当然だ、知ってる、黒住浄。もと陸自のレンジャー部隊だろ」


 武岩は浄の顎をつかみ上げた。もはや声は出ない、腹の底から、喉の奥から、血の泡がとめどなくあふれるばかりだ。窒息も間もない。


「妻のかたき討ちに、天城さんの息子のところへ忍んできた。いや、当然。俺でも復讐を考える。ただその前に」


 相手を知ることだと武岩は浄の顎を握り潰した。


 浄の意識はそこで途切れた。



 温情か、いや騒ぎを蒸し返されることを嫌ってだろう、浄は警察に突き出されることはなかった。


 気がつくと浄は、病院の集中治療室で呼吸補助器と点滴と心電図に囲まれた状態で寝ていた。

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