第8話

 屋敷の主は東京に行って不在。それに伴って、警備の人数も若干手薄。もちろんそれも下調べ済み。


 闇に目を凝らし、慎重に進む。


 陸上自衛隊出身の元レンジャー。二期満了で円満除隊。その経験が、このようなかたちで活かされるとは夢にも思っていなかった。完全なる違法行為であるが、思いは至純。


 殺す。


 故意に人の命を奪った者に未来など必要ない。


 天城の息子は二階の一番奥、使用している二部屋のどちらかにいるはずだった。


 磨き込まれた廊下に顔をつけるようにして様子を見る。障子戸の隙間から明かりが漏れている。


 耳をすませば夜の音。


 できれば雨や風の強い夜を狙って侵入するつもりであったが、ぼやぼやしているうちに屋敷の主が戻ってきてしまう。


 静かに夜気を吸い込み、そろそろと鼻から抜く。


 こんなことをしても葉子は喜びはしない。


 葉子の声なき声は、復讐など何も生まないと訴えている。


 無法を働いた者を許せというのか、泣き寝入りに甘んじろというのか。


 浄はおのれの中の炎を持て余し、その火に追い立てられるようにしてここにいる。息子を殺した後のことなど考えていない。おそらく、葉子の許へと向かうのだろう。


 周到に事を進めているが、捨て鉢。

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