第6話

「もちろん少年はそれなりの施設に入所させ、人格矯正と、一般的な社会性を身に着けさせます」


 浄はテーブルの上の湯飲みを見つめている。葉子と選んで買ったものだ。


「自分の快楽のために人を殺すような人間に未来などいらない、違いますか」


 努めて冷静にしているつもりであったが、声が震えていた。壁時計が秒を刻む音がやたらと耳につく。


 浄は続けた。


「妻は殺された。しかしあなたがたは傷害致死とやらにもっていくんでしょう? 殺意の有無は重要だ」


 剣は重々しく、それはお答えできかねますと云うのみ。


 犯人の名前を訊いても申し上げられませんの一点張り。天城氏の息子でしょうと云っても同様。


 浄は静かに立ち上がり、剣弁護士にお引き取り下さいと告げた。自分の意志はかわらないと。


 その後も数度、剣は浄の許を訪れたが、話し合いは平行線のままであった。



 年が明け、幾度かの裁判が行われた。


 結果は剣氏が述べた通り。世論こそ被害者とその遺族に同情する声が多かったが、初犯であり品行も不良ではなかった少年には幾年かの矯正施設入所が云いわたされたのみ。


 私財をすべて擲ち、仕事もやめてしまった浄は、それでも徒手空拳で必死に戦い続けたがなんの成果も得られなかった。

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